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涙(2)
「なあ、エロ本ねえの?」
「てめーは中学生か」
ベッドの下を覗き込む香月の小さな尻を、小突くように蹴ってやった。わざとらしく痛そうに尻をさする香月を無視して、俺はキッチンに向かった。
「適当につまみ作るから、好きにしてて」
「ああ」
ベッドに腰掛けて俺の部屋を眺めながら、香月は間延びした返事をした。
夕飯は外食で済ましていたので、簡単に食べられるものでよかった。
冷蔵庫にストックしてあったトマトと、きゅうり、ちくわを取り出す。食べやすい長さに切ったちくわにコンソメとチーズを振りかけて、レンチン。その間にきゅうりとトマトを切る。きゅうりにはごま油と叩いた梅を和えて、最後にごまと塩を振って完成。
途中寄ったコンビニで買ったチーズを開けて、トマトに重ねる。オリーブオイルとバジルをかけてカプレーゼの出来上がり。
ものの5分ほどで3品出来上がった。
都も酒が好きだった。
2人でこのキッチンに立って、ある食材で適当につまみを作って、DVDなんかを観ながらダラダラ過ごすだけ。それが幸せだった。
出来たつまみと酒を手に部屋に戻った。
香月は俺のベッドに腰掛けて、本棚から取り出したらしい漫画を読んでいた。
その光景を目にして、部屋の入口で、思わず足が止まった。
都もよく、そうやって本を読んでいたからだ。
だが手元から顔を上げて現れたのは都ではなく、香月だ。香月は、不思議そうに俺を見上げた。
「なに突っ立ってんの」
「...別に。勝手に読むなよな」
「好きにしてていいって言わなかったっけか」
この家には、都の面影が残りすぎている。
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