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涙(3)

食べ終わった後、後片付けのために空いた皿を手にキッチンに向かった。 そんな俺の後ろから、香月がひょこひょこついてきた。 「トイレならそこ右に曲がったとこ」 「いや、皿ぐらい洗おうと思ってさ」 「あー...いいよ、少ないし」 それでも香月は何か手伝いたがった。至って普通な行動だと思う。香月は何も悪くない。悪いのは、勝手に都と香月を重ねてしまう俺自身だ。 そして何よりも、キッチンという場所が、一番よくない。 「...なんか変」 「何が?」 「お前だよ」 ああ、やってしまったな、と後悔してももう遅い。極力平静を保ちながら、空いた皿を慎重に流し台に置いた。 「最初からずっと変」 「最初ってあれか、初めて会った時か。そりゃあ変だろ、はじめましてでやることやってんだから。今更何言ってんの、お前」 人間、切羽詰まると口数が多くなるらしい。鼓動が早くなるのが分かった。落ち着け、落ち着け、と自身を宥める。わざわざ喧嘩をするために香月を招いたわけじゃない。 だが、イライラを押し殺す術が見つからない。キツく下唇を噛むことぐらいしかできなかった。 「そうじゃねえだろ。話そらすな」 「何もそらしてねえだろ?お前何の話がしたいんだよ」 「お前の話だよ、桐谷」 香月は、冷静だった。顔を見なくても分かる。声のトーンが変わらないからだ。それが逆にイライラを募らせた。 「何が言いたいんだよ。人のこと変、変って。気分悪いんだけど」 「気分悪いのはこっちの方だ。ソワソワしやがって。なんでそんな緊張してんの」 「俺がいつ緊張したよ?え?フツーに酒飲んで、飯食って、話して、そんだけだろ!?」 「桐谷、聞けって」 「あ?なんだよ、また説教かよ?大体な、いきなりズケズケ人の腹ん中入ってきて、説教かまして、何様だよお前!今度は何の文句があるわけ?」 「桐谷」 「うるせえっての!お前の説教なんか聞くわけねえだろ!?あーもう、腹立つわ」 喋れば喋るほど、ヒートアップしていく。イライラする。頭が痛い。呼吸も荒い。深呼吸しても、無駄だった。 怖くて香月の方を見れなかった。香月が怖いのではない。振り向いたら最後、もっと酷い事を言ってしまいそうな、自分が怖い。 「ちょっ....、んだよ痛えな!!離せ!」 その時突然後ろから手首を掴まれて、香月に乱暴に引っ張られた。ズカズカと、早足で部屋に引きづりこまれる。放るようにベッドに投げ飛ばされて、思わず顔を顰めた。目を開けると、俺に跨った状態の香月が、真っ直ぐ俺を見下ろしていた。 香月は、怒ってもいないし、困ってもいないし、悲しんでもいなかった。ただ真剣に、心から、俺を心配していた。

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