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涙(6)
あの一件から、香月は時折俺を抱き締めるようになった。
いつでもそうする訳では無い。
苦しいとか、辛いとか、負の感情に侵食されそうな時、胸の内が真っ黒になる手前で、香月は手を差し伸べてくれるのだ。
それこそその名前にある月のように、柔らかく淡い光で照らしてくれた。
やはり最初はまだ身体は強ばるし、気も張るし、すぐに安らぐとは言い難かったけれど、香月は急かすことも、手を離すこともしなかった。
次第に俺は香月の目の前で泣けるようになった。
泣く時は大抵、香月の腕の中にいた。泣き顔を見ないようにと、配慮してくれているのだと分かった。
最近は、だんだん泣く回数も減っている。
氷の塊は、順調に溶けていっていた。
時間はかかるかもしれないが、溶けたものが水溜まりとなって、いつかは海となって、穏やかに優しく波打つ日が、訪れるような気がした。香月といると、自然とそう思えた。
泣いた時は酷く疲れて、そのまま眠りにつくことが多かった。
目を覚ました時、必ず香月はそばに居た。香月が目を瞑っているうちは、香月が起きるまで静かにそのままでいた。敢えてそうするようにしていた。
香月は俺が起きた時に必ず確かめるように俺の表情を伺う。そして確認すると「おはよう」と言って、またいつもの調子に戻るのだ。
その“リセット”が行われるまで、俺は静かに息を潜めて待った。
香月に対する思いに変化が見られたのは、あとから思えばこの時からだったかもしれない。
恋と呼ぶにはあまりにも早熟で、自覚もなかったが、ただの友人でセフレという関係からは1歩抜け出したような、そんな感覚だった。
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