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課題(6)
帰宅した俺は、着替えもせずにそのままベッドに倒れ込んだ。疲れた身体を、ベッドが受け止めてくれる。そのベッドの音もなんだか疲れているように聞こえた。
夕飯はまだだった。自炊する気分にはなれなかったので、帰宅途中寄ったコンビニで、食べるものは買ってきてある。だからすぐに食べられるし、空腹ではあったが、身体のだるさの方が勝っていた。
俺はベッドにうつむせに寝たまま、ゆっくり目を瞑った。
ここ1、2ヶ月、本当にいろんなことがあった。
長年連れあった都との別れ。柄にもない自棄酒。香月との出会い。まさかの男と身体の関係を持つ。そしてそいつはいつの間にかセフレ。
そして。
尻まで開発されようとしている、俺。
ドキュメンタリー映画の1本や2本あっという間に出来てしまいそうだ。
...この間はあの後も散々だった。
思い出しただけでゾッとする。
ブブッ、ブブッ。
丁度、握りしめていた携帯のバイブが鳴った。すぐにバイブが止まったので、どうやらLINEのようだ。時計を見ると、現在20時19分。仕事のLINEでないことを祈るばかりだ。
俺は憂鬱な心持ちのまま、携帯の画面を見た。やはり、LINEの通知だった。
ロック画面を開く。
そこに現れた名前を目にした俺は絶望して、ゆっくり携帯から顔を背けた。
香月一織。
要件など、聞かずとも想像に易い。
仕事の連絡の方がよっぽどマシだった。
すぐには既読を付けたくない。少し時間が経ってからにしよう。心の準備が整ってからでいい。そう自分を正当化する俺を嘲笑うかのごとく続けざまにバイブが鳴り、俺は弾かれたように跳ね起きた。
「はいはいはいはい見ますよ、見りゃいいんだろ!?」
乱暴に液晶画面を叩いた。連打してやった。
開くと、まず1通目はこうだ。
『自主練、順調ですかー?』
そして2通目。
『来週の金曜、課題提出。期限厳守な』
微塵もセンスのない文面に心から苛立ちを覚えた。
携帯をかち割りたりたい衝動に駆られて、両手で握りしめながら怒りに震えた。
香月の携帯なら喜んで割ってやるのだが、手にしているのは自分の携帯だ。苛立ちを深呼吸で抑え込んで、何と返してやろうかと画策を練る。だが特に何も浮かばず時間ばかりが過ぎていく。香月に費やす時間の方が勿体ないと区切りをつけて、『うるせぇ。寝かせろ』とだけ返し、携帯を放った。
金曜...か。
今日根塚から依頼された仕事と同じ期限だ。
同じ期限付きの内容でもモチベーションにおいては天と地ほどの差がある。
...おもむろに、クローゼットを見遣る。
----これ、持っといて。練習のお供に使って。
そう言って前回香月から手渡されたローションが、そこにはしまわれていた。
気分が乗るはずもなく、まだ1度もその“自主練”は行っていない。
「...はあ」
ため息がでた。
とにかく、まずは、飯を食おう。
コンビニで買ったおにぎりと唐揚げが俺を待っている。
それから風呂に入って、ゆっくり身体を休めよう。
話は、それからだ。
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