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課題提出(3)

「な、顔見せろよ、桐谷」 耳元で囁かれる声は今日も低く、落ち着いている。こうして香月の声を聞くのも、久しぶりだ。 俺は首を横に振り、ひたすら香月の肩に顔を隠し続けた。 虚無感と戦いながら、羞恥に見舞われながら過ごしたこの数日間。 お前から言われた一言が頭から離れなくて、毎晩のように醜態を晒した俺は健気そのものだ。 それなのに何の収穫も進歩もなく、今日が来てしまった。 「恥ずかしくてもいいから。顔見せろって」 そんな優しい声で都合のいいこと言うんじゃねえ。お前がよくても俺がよくないんだよ。そんな思いを込めてまた横に首を振る。 「なあ。お前わかってんの?恥ずかしがってるお前嫌いじゃねえって、俺前言ったよな?」 わかっている。わかっていても俺はこんな風にしかできないんだ。 香月の唇が耳に触れた。耳朶を啄み、甘噛みし、息をふきかけてくる。くわえて腰周りの愛撫に耐えきれなくなった身体が震え、それとともに吐息が漏れた。 身体が熱い。心臓がバクバクいっている。 「だから俺は別にいいよ。そうやって時間が経つほど、クソ恥ずかしくなってくお前の顔見れるんだし?」 やっぱり悪魔だ。人の醜態を食らう悪魔だ。 「っ...いや、だ...」 「ん、だからさ、クソ恥ずかしくなる前に、顔見せといた方がいいんじゃないの?」 優しい声音が耳の中にすとんと落ちていく。頭の中を掻き乱される。俺の意思にまとわりついて、次第に絆されていく。 「桐谷」 甘く鼓膜に届く声。その声は反則だろ。そして、鼻腔を擽るのは、あの甘い匂い。何もかも甘すぎて麻痺でも起こしそうだ。もうどうにでもなれと思った瞬間、さらに香りが立った。誘われるようにして顔を上げると、優しい表情をした香月がいた。早く顔を見ておけばよかった、とほんの少しだけ後悔した。 「ははっ、どんだけ赤くしてんの、茹でダコかよ」 「うるせぇ、言うな...っ」 香月が可笑しそうに笑い、俺の頬に両手を添えてきた。 「ちゃんと自主練したんだ?」 「っ..........」 ここ数日間のことを話した。職場で完璧に仕事をこなした。だが家に帰ればやってくるのは未知の時間。できる俺とできない俺。数字やグラフで目に見えるものとは違い、ゴールの見えない未知のものに向き合うのは、正直結構こたえた。香月は、お前真面目かよ、と吹き出すように笑って、添えた手で顔を引き寄せてキスをしてきた。 「ほんとお前さ、なんか可愛いんだわ。...いじめたくなる」 「サラっと怖いこと言うんじゃねぇ...」 「でもさあ、桐谷。安心して」 ああ、この目は、よくない。俺を真っ直ぐ見据える、ギラついた目。狼の目だ。 「今日はちゃんと気持ちよくしてやるから。1人でするときもちゃんと気持ちよくなるようにさ」 一体どこから湧いてくるのか、自信たっぷりにそう言って、香月は俺の言葉を待たずにキスをした。 正直戸惑った。 時折俺を抱き締める時のような、優しさに満ちたキスだったからだ。隠しきれない戸惑いが、鼓動に表れていた。爆ぜんばかりに高鳴った鼓動が、痛いほどに感じられる。だがこの高鳴りはきっと、戸惑いだけではないこともわかっている。 気持ちよくしてやるから。 たったその一言に、俺は期待でこんなにも胸を高鳴らせているんだ。 香月の肉厚な舌に自分のそれを絡め取られると、脳味噌が蕩ける感覚がやってきた。俺は応えるように舌先を絡めて、久しぶりの香月の体温に身を委ねた。

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