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R&B(1)
「乾杯!」
掛け声と共に、カチンとジョッキがぶつかり合ういい音がした。何度聞いてもいい音だ。早速グビグビとビールを飲み下す。やはり週末の夜の1杯目のビールは最高に美味かった。
「今週もお疲れ様」
俺の向いに座る根塚がにこやかに言った。先日の約束通り、今日は根塚に連れられて飲みに来ている。
「根塚さんもお疲れ様でした」
「はーい皆さんおつかれーっす」
そして、俺の隣に座るこのうるさい男は、後輩の四十万司 だ。今日は根塚とサシで飲みに行くはずが、たまたま退社するタイミングが被った四十万も同席することになった。四十万は根塚の直属の部下だ。根塚も嫌な顔一つをせず「せっかくだから四十万くんもおいで」と、あの菩薩のような笑顔で四十万を迎え入れた。
「なんでお前まで来てんだよ」
「いーじゃないっすかぁ。みんなでワイワイしましょうよ。ね!根塚さん」
「ね!...じゃねーだろコラ」
四十万は普段から陽気な奴だ。その持ち前の明るさで、こいつはすっかり会社のムードメーカーとなっている。人懐っこくて憎めない奴。まるで犬だ。舌を出してしっぽを振ってる犬そのものだ。そんな四十万だが、実は俺の可愛がっている後輩のうちの1人でもある。
根塚はにこにこと俺達のやり取りを聞いていた。まるで自分の息子たちが戯れているのを微笑ましく見守る父のようだった。
「根塚さん、詩乃(しの)さんは変わりないですか」
「ああ、詩乃は元気だよ。みんなしばらく詩乃と会えてないもんな」
詩乃とは根塚の奥さんだ。元々根塚の後輩で、俺も彼女とはよく仕事をさせてもらっていたのでよく知っている。詩乃は根塚と社内恋愛の末結婚し、退職した。寿退社というやつだ。2年ほど前には子どもも生まれて、根塚は既に一家の大黒柱だ。
「いいっすよねぇあんな美人さんが奥さんだなんて」
四十万の言う通り、詩乃は美人だった。美人で、仕事もできて、何より笑顔がよかった。
「ほんと、羨ましいです」
根塚ははにかみながらも嬉しそうだった。自分の妻を褒められて嬉しくない夫はきっといない。
「いや、でも桐谷くんだって可愛い彼女がいるじゃないか」
「あ、別れましたよ」
「え!?」
「えええ!?」
2人揃って素っ頓狂な声を上げたので、俺は思わず笑ってしまった。
「なんですか、2人して」
「いやいやいやなんですかはこっちのセリフですよなんで桐谷さん笑ってんすか!!」
「そうか、だから元気なかったのか桐谷くん...」
何故だどうしてだと喚く四十万と、今にも泣きそうな顔を向ける根塚たちの方が不憫に思えてしまう。俺の方があっけらかんとしていて、そんな俺が2人には強がっている風に見えているらしい。
「桐谷さん今日はもう好きなだけ飲んでください!吐くまで飲んでください!俺が両手で全っっ部受け止めますんで!」
「いや吐かねーよ。てかそれ根塚さんの前で言うなバカ」
「桐谷くんいいから、好きなだけ飲んで。今日は無礼講、ね?」
わんわん叫びながら俺の腕にしがみつく四十万。多くを言わずに優しい眼差しをくれる根塚。
俺はもう別れた当初よりいくらか気持ちは落ち着いている。誰かさんのおかげで、俺の心は安らかだ。
2人を交互に眺めながら、俺はまた笑みを浮かべた。
俺の周りには、こうして一緒に悲しんだり笑ったりできる存在がたくさんいる。俺はこんなにも人に恵まれている。
「よし、じゃー今日は飲みますか!」
俺を思ってくれる人達と、過ごす時間。
俺はつくづく、幸せ者だ。
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