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R&B(5)

「ほんと...悪かった」 「いいっての。おもしれーもん見れたからそれでチャラ」 俺は鮭の身をほぐそうとした箸の動きを止めた。 「......俺やらかした?」 「ま、やらかしたっちゃあやらかしたかな?俺らは楽しませてもらったけどな」 俺は、味噌汁を啜る香月に縋るように目線を遣った。その俺の顔を見た香月が、慌てて口元に手を当てて顔を背け、肩を震わせた。 ごくり、と味噌汁を飲み下す音がした。 「なんつー顔してんだよ、吹くかと思ったわ」 「いやもう会社行く勇気が出ねえ」 「そんな大事故じゃねーから会社には行け。そんでお2人さんに可愛がられて来い」 「それっていい意味?悪い意味?」 「もちろんいい意味」 香月は今度は茶碗をもち、白飯をかきこんだ。食べ方は結構男らしい。俺は香月の言葉を信じられず、白飯をかきこむ香月の横顔を見ながら真意を見極めようとした。が、嘘を言っている感じは見受けられない。 「知りたい?」 俺の心の声が聞こえたのか、香月は片方の眉をつり上げながら聞いてきた。 どのみち介抱してもらった身なのだから謝ることに変わりはないのだが、失礼があったのなら尚のこと謝罪しなければならない。 聞くのは半分怖かったが、俺は知りたいと頷いた。 「まぁ、ざっくり3部構成でだな」 口の端に付いていた米を指先で拭って口に含むと、香月は順に指を立てながら話した。 「第1部、根塚さんが大好きでしょうがない話。第2部、四十万くんが可愛くてしょうがない話。第3部...」 「ちょっ、す、ストップストップ!!」 俺が慌ててその先を遮ると、香月は口を閉ざした。俺は静かに箸を置いて、口元を抑えた。 大分やらかしてるじゃないか。羞恥が激しく込み上げてきて消えたくなった。ひたすら自分が恥ずかしい。休み明けどんな顔をして2人に会えばいいんだ。絶望してため息をつくと、香月はポンと軽く俺の肩を叩いた。 「だからさ、可愛がられて来いっつったろ?」 「わかってんよ....」 本人たちにとっては微笑ましい話なのだ。嬉しい話なのだ。言い争ったわけでも信用を失ったわけでもない。理解はしているがこの込み上げる恥ずかしさと後悔はどう昇華してやればいいのだろう。 「お2人さん、結構嬉しそうだったよ」 香月の言う通り、迷惑がらずに嬉しく思ってくれたのなら、俺の心は少しは救われる。俺は自ら言い聞かせるように何度も頷いた。 いつの間にか食べ終わった食器を重ね始めた香月に、俺は聞いた。 「....一応聞くけど第3部は」 「あー、3部な」 香月は重ねた食器を持ち、ソファから立ち上がった。 「その他、酔っぱらいのしょーもない話」 「んだよそれ...」 「大したことないってこと。気にすんな」 1度こちらに振り向いて小さく笑うと、香月はキッチンに向かった。香月がそう言うのなら大丈夫なのだろう。根塚と四十万を困らせるような事態でなかったのなら安心できた。 「あ。ちなみにだけどー、帰りはお前ん家まで送ったって話になってるから」 キッチンのカウンターから顔だけこちらに覗かせて香月が言った。俺は了解して、再び鮭の身をほぐして食べ始めた。 恥ずかしい思いはしたが、俺の中に残っている昨夜の感覚は非常にいいものだ。いい時間であったのは、間違いなかった。

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