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スーツと服(6)

「珍しいなと思いながら出たら、お前は酔ってた。どこにいんのって聞いたら、居酒屋で同僚と飲んでるって。電話切れって言っても、お前切らねぇし、切らしてくんねぇの。...なんか、胸騒ぎしてさ。その時俺はもう家を飛び出してたよ。車出して、運転しながら、ずっとお前の話聞いてた。根塚さんの話とか、四十万くんの話とか、...すげーいい話だった。2人が嬉しそうだったのもホント。...でも最後は、ちょっとよくなかった」 香月は一度ゆっくり息継ぎをして、更に続けた。 「あれはもう...ほとんど告白だった」 香月が参った風に笑った。 「とにかく...もうやめてくれ、それ以上、今は言わないでくれって、そう思いながら聞いてた。...そしたら、突然電話口の声が変わったんだ」 香月が俺の方を見た。 「根塚さんだった」 その名を聞いた瞬間、俺は呼吸をするのを忘れた。 「ここから先は、2人でいるときに聞いてあげなさい。君、今こっちに向かってるんでしょう?一旦電話は切るから、とにかく、気を付けて来なさい、ってさ。...ほんと、人がよすぎるよ、お前の上司」 根塚は俺にそれを匂わせるような素振りは一切見せなかった。四十万もそうだ。 俺は、守られていたのだ。全員に。 「店に着いたら、根塚さんが店の前で待ってくれていた。俺だって分かったら、わざわざありがとう、こっちだよって案内してくれた。それがすげえ、自然なんだよ。...冷静になれた。俺は根塚さんのおかげで、酔った友人をただ迎えに来ただけの男でいられたんだ」 そこはなんとなく覚えている。 友達が来たと知らされて、それが香月だったのが印象的だったからだ。 「それからお前を乗せて連れて帰って、もう...我慢できなくてキスした。忘れてなんて言いながら、覚えててくんないかなって心のどっかで思ってたよ。それでお前が俺を意識しくれたらいいなってさ...半分賭けみたいなもんだけど。まあでも、どうやら俺は賭けには勝ったらしい」 香月が優しい眼差しを向けてきた。 「お前は酔ってて自分の言ったこと覚えてないだろうけどさ。俺本当はすげえ嬉しかったんだよ。だからこそ、俺以外の人に聞かせたくなかった。...俺はお前の心の声聞いて、もう一線越えたいって、本気で思ったんだ」 香月の言う一線の意味は、言われずともよくわかった。 「先にお前に言われちゃったけどさ、...聞いて、桐谷」 未だかつてこんなにドキドキしたことがあっただろうか。呼吸を忘れるくらい俺は鼓動を高鳴らせていた。瞬きすることも忘れ、俺は真っ直ぐ香月を見た。 「俺も、桐谷と一緒にいる時間が好きだし、桐谷ともっと一緒にいたいよ。なんでもない時でも、会いてえなって思う。...俺も、桐谷に出会えて本当によかった」 香月が言葉を紡ぐ度、俺の顔は熱くなっていった。香月から貰った言葉が全て俺があの時の電話で言ったことだと思うと、顔から火が出るような心持ちになった。 「...ここから先は、俺の言葉だから。ちゃんと聞いて。俺は会う度に、お前に恋していってた。ずっと戸惑いながら、誤魔化しながらいたけど、もう俺は正直に言うよ」 香月の優しい表情が、月明かりに淡く照らされ、美しく陰影をかたどった。 「桐谷が好きだ」

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