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スーツと服(7)

世の中に、これ以上に素敵な言葉は存在するのだろうか。多分ないだろうなと、今は思えた。 これは夢か何かじゃないだろうか。 香月が俺を好きだ、なんて。 そうなればいいなと、俺はきっと心の隅で願っていた。 初めて名前を呼ばれたあの夜、香月に恋をしている自分を認めきれずに仮初の関係を望んだ。 俺が恋をした相手が男だということに戸惑う自分が少なからずいたのだ。 頬に何かが伝った。 涙だとわかったのは、頬に添えられた香月の手が涙を拭うような仕草をしたからだ。困ったように笑いながら、香月は俺の頬を包んだ。 「何泣いてんだよ。そんなに嫌だったか?ん?」 「嫌じゃねえよ!勝手に出てくんだよ!見んなよバカ...」 俺が泣いた時、いつもなら顔を見ずに黙って抱きしめてくれるのに。 今更泣き顔なんて見せられず、顔を隠そうとして香月の手を振り払った。 だが香月はそんな俺の手首を掴み、「ダメ、見せて」と微笑んでみせた。 嬉しくて、恥ずかしくて、あたたかくて、幸せで。そんないくつもの感覚が湧き上がってごちゃごちゃになったものが、涙となってとめどなく溢れ出て来た。 「なあ、教えて桐谷。お前はどう思ってるの」 目の前にいる香月を見つめる。やっぱりその表情はとても優しくて、見ているだけで胸がいっぱいになる。 その優しい表情も、あたたかい大きな手も、香月のなにもかもに、俺は。 恋をしているんだ。 「....好きだよ、俺も、香月が好き。すき、すげえ、すき...っ、す、き...んっ...」 涙とともに溢れて止まらなくなった好きが、香月の唇に奪われた。

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