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Good morning(1)
とてもあたかかった。
あたたかくて、優しい温もりにの中にいた。
名前を囁かれたが、目を閉じたまま暫くそこにいた。
多分夢なのだろう。だったら目覚めてしまうのは少し惜しい。だからもう少しだけ、そこにいたかった。
再び名前を呼ばれたが、俺は「うん...」とだけ唸って目を閉じたままでいた。
耳がこそばゆい。身動ぎしても、こそばゆいのがついて来るのでまた唸った。
それでもしつこく触れられるで、俺は渋々薄ら目をあけた。とても心地よい夢だったのに、勿体ない。そう思いながら重たい瞼をこじ開けたが、有難いことに、目を開けてからもその感覚は消えなかった。
(...あったけえな)
鼻から深く息を吸い込むと、とても甘い香りがした。
何の香りかはすぐに分かった。
一織の香りだった。
「起きたか寝坊助」
乾いた声がして目線を上げると、声の主はやはり一織だった。
寝ぼけ眼に一織が映る。起きたつもりだったが、まだ夢の中なのかもしれない。夢とうつつの判別がつかないまま、視界に映る一織の顔をぼうっと見ていた。
これが夢なら、相当いい夢だし、現実なら、俺は世界一幸せ者だ。
どちらにしても、目の前に一織がいることに変わりはない。
ふ、と笑みが溢れた。
応えるように一織も俺に笑いかけ、さらさらと髪を撫でてきた。優しい手の感触が気持ちいい。目にかかった髪をかきあげられて、額に唇を押し当てられた。
夢にしては、感触がリアルだった。
「まだ寝ぼけてんのかー?」
いよいよ現実味が増してきた。
頭がスッキリしてくる。
俺は小さく首を横に振って、一織の目を見つめた。
「...今、起きた」
寝起きのかすれた声が出た。一織がまた微笑んで、頬を撫で付けてくる。俺は自らその手に擦り寄るように、頬を寄せた。
「おはよ...一織」
「おはよう、優」
目が覚めれば目の前に恋人がいて、その腕の中で微睡み、おはようと交わす。
最高の朝だ。夢のような朝だ。
しっとりとしたキスをされると、ふわふわと心地よい浮遊感を覚えて、俺は安心してそれに身を委ねた。
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