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第3話:これ以上の愛はない*r18
ぬるめのr18あります。
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考えても見て欲しい。
自分に価値も自身もなかったどうしようも無く惰性で生きるしかなかった男が、自分よりも遥かに容姿も性格も脳力が高い男に好きだ愛していると言われ続けて絆されない訳があろうものか。
特に住良木さんと来たら、歯の浮くようなセリフを言いながらも此方に気を使ってくれていた。
あんなに好き好き言いながらも「僕が一方的に君を愛してるだけだから、君は無理に応えなくてもいい。それは勿論、僕の愛に応えてくれるならこれ以上の幸福はないけれどね」と言ってくる。
俺が仕方ないからと愛を差し出すことを良しとはしないのだ。同情や義務感ではなく、ちゃんと俺も住良木さんを愛した上でその手を取ることしか彼は望んでいない。
だから、好きになってしまったのだけれど。
熱い瞳に頬が焼かれることを気が付かないふりをして、手を握り返すことも出来ずにいた。
そうすれば、俺は彼の真綿のような愛に包まれて生きていくことが出来るのだから。
ここに来るまでは生きる意義なんてものを見い出せなかったのに、住良木さんのせいですっかりこのままずっとこの繭の中に居たいと思うようになってしまったのだ。
だから、結局住良木さんの愛に応える事はない。
好きだとバレていようが拒絶さえし続ければトロッコは衆道の道には進んでいかないのだろう。
と、言うことを住良木さんから横抱きにされて住良木さんの部屋に連れていかれる間に考えていた。
廊下で腰が抜けて顔を真っ赤にして膨らませる俺を住良木さんは散々JKの様にかわいいかわいいと言ってから抱き上げて「僕の部屋の布団の方がよく眠れるだろうからね」と部屋にお持ち帰りしたのだ。
お持ち帰りじゃない。介抱するために連れて行って、いつの間にかに使用人さんに敷かせていたらしい布団に寝かせてくれたのだ。お持ち帰りじゃない。
ただ、キスをかましてきた人の部屋に連れて込まれて布団に寝かされるなんて流石に薄い本に出てくる女の子でも警戒する。
だから俺も住良木さんの匂いに包まれたせいで確かにテンションが上がりはしたが、ムスッとした顔を崩さないでいる。
そんな頬をふにふにつついてくる住良木さんは絶許である。
「あの、やめてもらえますか」
「君は怒っているのかい?」
「怒っていますが、なにか」
急なキスに腰を抜かして加害者の布団で寝かされているこの不甲斐ない状況でも怒っています。何か問題でも?
「そうかそうか、怒っているのか。それはとてもかわいいな」
……この人はサイコパスか何かなのか。俺の先祖がこんなにサイコパスな訳が無い。
怪訝な顔をしたのに気付いたのか、住良木さんは笑顔のまま取ってつけたような謝罪を述べた。そんな謝罪欲しくないのだが。
「ふふ、僕は君が素直に感情を向けてくれるのがとても嬉しいんだよ。人の感情は喜怒哀楽があると言うけれど、君と来たら喜と楽しか見せないものだから」
「そんなことないですよ」
困惑とか、困惑とか困惑とさしているはずだ。困惑とかは包み隠したことがないと、思う。
しかし、住良木さんは首を左右に振って続けた。
「楽しく笑っている顔は勿論好きだけれど、僕の前では哀しみも怒りも出して欲しい。どんな君も好きで居続ける自信がある。僕の前では感情も何もかも我慢しないで欲しいと、そう思ってしまうのはどうしようもなく強欲だろうか」
「ご、強欲って程じゃないですけど……」
「けど?」
「……困る」
結局包み隠さずに出せた感情は困惑だ。喜怒哀楽に困惑も追加させておいてもらいたいところだ。
そうだ。俺はもう前々から困っているんだ。
そのような事を言われてしまっては困る。
大したことも言っていないのに嬉しそうに微笑まれるのは困る。
愛されてしまっては困る。
だって。それらを拒絶出来るほどの精神力が俺には無いのだから。
だから、いっそ嫌われてしまった方がいいかもしれない。そんなに言うのであればお望み通り怒って、子供のように癇癪を起こして見せよう。
「……裏切られたと思いました。住良木さんなら誰にも見せないと勝手に信じていたのものですから」
「申し訳ないことをした」
「事前に相談するとか無かったんですか?」
「すまない、どうしても気が急いてしまったのだ。君は自己肯定力が著しく低いから、きっと了承は得られないと思ったんだ」
「いくら俺でも住良木さんから言われたら何だかんだですぐ了承しま……なんでもないです。忘れてください」
危ない危ない。口が滑りすぎた。コホン、と気を取り直す。
「ええ、確かに了承しなかったでしょう」
「今その可愛らしい唇が僕なら構わないと言ってくれた気がするのだけれど?」
「気の所為でしょうとも。ええ。確かに了承はしなかったでしょうけれど、それが相談しない理由にはなりません。違いますか?」
ジト目で言い切ると、住良木さんはハッとしたように頭を下げた。
「すまなかった。君の気持ちも考えず」
「……住良木さんは、例え面白い作品だったからと言ってこのようなことをする人ではないと思っています。何故このようなことをしたのか皆目見当もつかない。理由を教えてください」
「いいや、どんな理由であろうと君を傷つけたことに変わりはない。どう言っても言い訳がましくなってしまう」
「どんな理由でも良いですから、聞かせてください」
聞きたいと言っているのに中々話してくれない住良木さんにイライラする。
住良木さんは俺が理由を聞いたらきっと許してしまうだろうからとか思ってるんだろうけど、そんなに良い子ならここまで拗れてない。
「許さないので、安心して話してください」と何をどう安心するのか分からないことを言うと、長い沈黙の末、住良木さんは「こんなに口ごもることでも無いのだけれど」とボヤいてから重い口を開いた。
「僕は君よりも十は歳上だ。幸運にも寿命で死ぬことが出来たとして、君よりも先に死ぬことは明らかだ。だから、君に何が残せるのかを常々考えていたんだよ。
僕は親族と縁が薄いのにも関わらず、彼らは僕が死んだらこれ幸いと財も屋敷も掠めとってしまうだろう。そうすれば君はどうなる。あの親族に話が通じる訳もなく、あえなく君は僕を失った時に全てを失ってしまうことだろう。
最初は引き取り手を探そうと思っていたのだけれど、僕以外の奴が君と暮らすことはどうしても嫌だった。僕が死んでから知らない誰かと愛を紡いで共に生きていくのは許せるが、それを僕が手助けするなんてこと絶対に許さない。
そんな時だよ。君の三日目の日記を見たのは。あの一文を読んだ時に僕がどれ程感動に身を震わせたか、君は知らないだろう?
道が開かれたと思った。僕が君に残せるものはどうやら何も無いようだけれど、君の才能をちゃんと開かせてあげることは出来る。
君の手に職があるならば、君は僕が居なくても生きていけるのだ。
だから、年甲斐もなくはしゃいでしまって。知り合いの編集者に話をしてしまったんだ」
これに優る愛を、俺はきっと知らない。
「はえっ、」
そっと掛け布団を頭まで被った。
顔から火が出る所ではない。心臓が無駄に早く動きすぎるせいで身体中熱い。心臓ってこんなに動いたら死ぬのではないだろうか。顔だってこんなに熱くなったらどこかしらの機能がバグるのではなかろうか。現に涙腺がおかしくなってしまっているようだし、鼻で息をすればいいのか口で息をすればいいのか分からない。あれ。瞬きはどのタイミングでするのだろうか。今まで瞬きを意識してしていただろうか。
「でもやっぱり君に相談しないのはどう考えても僕が悪い。こんなものは言い訳でしかないから聞かせるべきではなかったね」
は?そんなわけが無い。
許す許さないに関しては正直言って住良木さんから2回も謝罪されればどれ程のことをされても許してしまいかねないのが俺だ。
いや違うくて。そうじゃなくて。なんと言えばいいのやら。
「は、話が……長いんですよ」
若干裏返ったけれど。なんとか震えずに言えた。
いつの間にか喉から水分が蒸発してしまったようで、ゴクリと唾を嚥下してなんとか潤そうとするけれど、渇きは収まらない。ああ、くそ。
「確かに、取り留めもなく話してしまった。もっと簡単にまとめられれば良かった。ごめんね」
「まあ、良いんじゃないですか?」
「寧哉くん?」
「大体ですね、住良木さんの方こそ俺に怒ったり哀しんだりしないじゃないですか」
「寧哉くん」
住良木さんが少し前から俺の掛け布団を剥がそうとするので、それはもう必死に応戦する。
こんな顔、見られていいわけが無いのだ。
「もっ、もう少し話してくれないと分からないんですよ。
いっつも、俺の話ばっかりじゃないですか。
勿論? 住良木さんの話は守秘義務ってやつがあることでしょうから? 話せないのでしょうけど、俺だって昼に何を食べたとかどうでもいいこと話してるんです。住良木さんだってそういうどうでも言い話をしてくれても別に構わな」
「ふはっ、寧哉くん。君、さては布団に気を取られて言葉を取り繕うのを忘れたな?」
「は?」
何を言っているのだろうか。住良木さんだって俺の話を聞きたがるんだから俺だって住良木さんの話を聞きたくなるのは普通……ん?
もしかして。俺は物凄く恥ずかしいことを言ってるのでは無いだろうか。
これ以上無いと思っていたのに顔が羞恥に染まる。
そしてその瞬間にエイヤと掛け布団をひっぺ剥がされてしまい、当然のように住良木さんと目が合ってしまった。
この目を見た人はなんと表現するのだろうか。ギラギラだろうか、ドロドロだろうか。
見たことも無いくせに、獲物を捉える瞬間の肉食獣の様な目だとでも言うのだろうか。
「ち、ちがっ、違うんですっ」
「ああ、寧哉くん。そんな顔をしてしまってはダメじゃないか。君が僕に愛を述べる前に僕を愛していることがバレてしまうよ」
「ちがっ、」
「違わないね? 寧哉くん」
住良木さんが俺の上に馬乗りになって、薄くて熱い唇から意地の悪い言葉を吐く。触れられても無いのに耳が熱い。
「さて、これも何回目だろうか。
勿論僕は拒絶されたらどんな状況であれど手を出しはしないから安心して断れるものなら断るといい」
ああ本当にこの人は。俺が流されてしまいたいことを分かっていてこんなことをしてくる。
俺が流されたなんて後から言い訳をして後戻りしないように退路をたつのだ。
「寧哉。僕の愛にどうか応えて欲しい」
「……ぅ、あ、」
名前を呼ぶのは、反則だ。
今まで何度トロッコに恋心を轢かせてきたと思っているのだろうか。
住良木さんの愛しているという唇に好きだと告げる目に何度恋焦がれたか数える気力もなかった。
それでも、絶対に衆道ダメ絶対の精神を貫いていたけれど。
でも、もうダメだ。
これ以上の愛はきっと無い。
今、目の前の愛を受け入れずして、これから惰性で毎日を過ごして何になると言うのだろうか。
「……敦祢さんが、俺を愛してくれるなら」
「愛しているよ寧哉」
「敦祢さんが、俺のことが好きで好きでたまらなくてどうしても欲しいと言うのなら」
「好きで好きで堪らないけど、寧哉だって僕の愛 が欲しくて堪らないでしょ?」
敦祢さんの鼻先が触れる。
「……欲しいって言わなくても勝手にくれる癖に」
「それはそうだ」
話す度に唇が触れてしまいそうになる。
お互いに吐いた息を吸い込んでしまいそうな距離なものだからきっと俺は今、敦祢さんの息で生きているし敦祢さんも俺の息で生きている。
「……もっと、」
「寧哉、接吻をする時は目を閉じるものだよ」
敦祢さんはガン開きで俺を見ているのに?
とは言わないであげよう。
驚くほど素直に落ちた瞼に、敦祢さんが「良い子だ」とリップ音を立てて吸い付いた。そっちじゃない。
誘導するように舌を少し出してみると、直ぐに吸いつかれた。
「んっ……ちゅっ、」
「はっ、」
吐息と、唾液の音を拾った耳から脳に快楽が伝わる。
そして理解させられる。俺はこの人に愛される為に生まれてきた。今日この日のせいで俺の存在が泡沫のように消えようともそれでいい。
それがいい。
「はっ、寧哉。寧哉。愛している。僕は君を一生愛すことを誓おう」
「俺も、敦祢さんのこと生涯をかけて愛することを約束します」
そうして、長い時間をかけて丁寧に解された尻穴に敦祢さんのものが入り、美しいかわいい好きだ愛しているを何度も何度も告げられ甘やかされて蕩かされて。敦祢さんの言葉を舌で味わう事が出来るのであれば、きっと蜂蜜のように甘いのだろうと思う。
初心者だし、痛い筈なのにこれが最後だと思うと止まって欲しくはなくて少しの快感に飛びついて、気持ちいい好きと告げれば敦祢さんはもっとくれた。
そうして何度も中をぐちゃぐちゃにされて奥を突かれて中に出されて。
それでも俺たちは止まらなかった。敦祢さんは紳士的な大人の人だと思っていたけれど性欲を前にすれば思春期男子と何ら変わらない、というかただの獣に成り下がるのだな、と媚肉できゅうきゅう絞めながら思った。
言葉で脳は痺れて心が生きて、胎内も随分満たされて。散々幸せを味わって、揺さぶられる中プツンと意識が途切れた。
人魚姫と違って恋が成就して泡になるのだから幸せなものだ。
もう少し真綿のような愛に包まれていたかったなんて強欲なことは思わない。
だって、間違いなくこれは世界にとっては悪手で。目の前の愛に屈してしまった俺はどうしようもなく極悪人なのだろうから。
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