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有とのこと

 違う方角の電車に乗る飯塚と駅で別れて、馳せる気持ちで帰路に着く。運良く座れた電車の中で先ほどまでの飯塚とのやり取りを思い出して、可笑しくなった。  どうやら飯塚は、大貴が何か悩みを抱えていると勘違いしていたようだ。けれど、大貴には悩むようなことは何もない。あまり喋らなかったり、いつも上の空のように見えたりしたようだが、それも別に何か思い悩んでいたわけでもない。食欲がないのも、何か原因があって喉を通らなくなったということでもない。  ただ興味がなくなっただけだ。この世界の、あらゆることに。 『有も心配してた』  飯塚に言われた言葉が蘇ってきて、少しだけ心苦しくなる。  有とは中学からの付き合いだった。1年生の時に同じクラスで席も近かったせいか直ぐに仲良くなった。人見知りで引っ込み思案な自分と、明るくて社交的な有は対象的な性格だったが、不思議とウマが合ったのだ。どこに行くにも何をやるにもいつも一緒だった。  ぼけっとして表情に乏しい大貴を男気のある真っ直ぐな有が引っ張っていく。そんな感じだった。中学の時は、本当に普通の仲の良い友達同士だった。  しかし、同じ高校に進学してから徐々に有との関係は変化していった。有は何も変わっていない。大貴が変わっただけだ。有の、成長しても変わらず可愛らしい見た目や、サッカーをしていたせいか程よく引き締まった身体に、いつの間にか別の感情を持つようになってしまった。  それが大きくなるにつれ、有の傍にいることが苦痛になった。少し油断すれば、有をめちゃくちゃにしてしまいそうだった。それほど激しい感情だった。有を支配したい。独占したい。自分の思い通りに喘がせてみたい。  だけど、有はもちろん大貴をそういう目では見ていなかったし、大貴を親友だと思い続けた。いつでも真っ直ぐで迷いもなく、無邪気に無遠慮に大貴の心にずかずかと入り込んできた。それが堪らなく嫌だった。  だから、自分から距離を置いたのだ。有は最初、そっけなくなった大貴に戸惑っているようだった。問い質されたこともあったし、怒りをぶつけられたこともあった。  しかし、それでも大貴の態度が変わらないことが分かると、やがてその距離を受け入れて高校卒業する頃にはほとんど会話を交わさなくなっていた。  これでこの苦しい感情から解放されると思っていた。なのに。  お互い受かった大学が1つしかなく、それが同じ大学の同じ学部だなんて予想もしていなかった。そして、たまたま友達になったグループの中に2人が交えてしまったことも。  同じグループになっても、大貴は相変わらずできる限り有とは関わらないようにしていた。とは言っても全く喋らないわけにはいかないので、話しかけられれば会話はしていたが。大貴がグループの中でも有以外の者となるべく行動を共にするようにする一方、有は飯塚と仲良くしていることが多かったため、必然的に大貴は飯塚とつるむことが少なかった。だから今日、飯塚に個人的に誘われてしかも心配までしてくれたことは正直意外だった。  もしかしたら、有に頼まれたのかもしれない。  飯塚と有が仲良くしているのを間近で見るのも苦しかった。自分の人一倍ある嫉妬心や、独占欲、支配欲。そんなものが毎日刺激されて追い込まれていくような感覚がしていた。

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