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突き動かされる
その有の悲しそうな表情に、大貴の苛々は募る。
なんなんだよ。なんで、そんな顔すんだよ。俺のことなんかどうでもいいはずなのに。だから嫌なんだ。俺が読めない、理解できない、この有が。
「もう放っといてくれ」
そう冷たく言い放った。有の表情が歪むのが分かった。その顔を見ていたくなくて、もうそこに有がいないかのようなフリをして携帯を再び弄り始めた。
そのままお互い何も言わず時間が過ぎた。
有は携帯を弄る大貴を見つめたままだった。その居心地の悪い視線に我慢ができず、この場を去ろうと立ち上がった。その時。
大貴の左腕をぎゅっと掴む感触がした。そちらを向くと、目の前に有の姿があった。さっきの弱々しく傷ついた瞳ではなく、意思の籠もった有らしい瞳で大貴を見ていた。
大貴の鼓動が早くなる。
「……放っておかない」
「……は?」
「ヒロが嫌だって言っても。偽善だろうがなんだろうが。俺は、ヒロを放っておかない」
「…………」
大貴の中で何かが疼く。
ああ。やっぱりこいつは予測不可能だ。それが嫌で。本当に嫌で。煩わしくて。ウザくて。ついつい冷たくしてしまうのに。なのに。
どこかでいつも。この有に突き動かされる。
真っ直ぐ見つめてくる有に思わず触れたくなった。大貴の世界の有にするように。このベンチの上に押し倒して、その有の全てを奪いたくなる。右手をそっと持ち上げた。有の頭へとその手を乗せる。ゆっくりと、有の少し痛んだ茶色の髪を梳いた。
「ヒロ……?」
有が不安そうな声で大貴を呼んだ。その、現実を生きる有の声にはっとなった。大貴の世界の有が決して発することのないその不安気な声に、大貴は冷静さを取り戻し、すっと手を下ろした。そのまま有に背中を向けると校舎へと歩き出した。後ろから有が呼び止めた。
「ヒロっ」
「……とにかく、もう、いいから」
呟くように言い放ち、振り向かずにそのままその場を後にした。
その後、大貴は有とは目も合わさなかった。有から自分の存在を消すように、自分の中から有の存在を消すように、有を無視し続けた。
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