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2人だけの世界

 それからどのくらい経ったのか、もう大貴には時間の感覚がなかった。  有と2人だけの世界。大貴が生み出した洒脱なマンションの中で、2人で暮らす。不思議と食欲は沸かなかった。食べたいと思うような物も浮かばなかった。何日食べなくても平気だった。やがて大貴は食事について考えること自体なくなった。  ただ喉の渇きは常にあった。有と交われば汗も掻いたし、体の疲れも感じた。寝たいと思えば寝ることもできたが、寝たくなければいつまででも起きていられた。  風呂にゆっくりと浸かったり、のんびりと読書をしたり、映画鑑賞をしたりして過ごす。それに飽きれば有と交わった。テレビが見られるか試したこともあったが、テレビ自体は現れるが、電源を付けてもホワイトノイズが流れるだけで何も見ことができなかった。どうやら、向こうの世界で時間の経過と共に流れる物に関しては、こちらの世界では共用できないようだった。その証拠に映画やドラマなど過去にすでに撮られた物は思い浮かべればディスクが現れ、鑑賞することができた。  大貴がただソファに体を預けている間、有はいつも隣で静かに過ごしていた。読書をしていることもあれば、一緒に映画やドラマ鑑賞をする時もあった。  自分からこうしたい、ああしたい、と何かねだることは一度もなかった。どんな時でも、大貴が有を抱きたいと思えば、有が拒絶することはなかった。  最初はそれがとても心地よかった。自分の言うことを何でも聞いてくれる有に。自分の征服欲を常に満たしてくれる有に。何でも大貴の思い通りになる。こんな最高な環境はない。  なのに。  いつからか、大貴の中に落ち着かない何かが生まれた。何か、体の一部がなくなってしまったかのような欠落感。喪失感。あるいは、物足りなさ、なのかもしれない。そういった感覚が少しずつだが、大貴の思考を支配するようになっていった。  大貴がそのことについて考えていると。決まって有がそっと大貴に抱き付いてきた。まるでそれ以上何も考えるなと言いたいかのように。上目遣いで大貴を見上げて、軽くキスをされる。そうすると、大貴の意識はすぐに目の前の有へと向かった。先ほどまで大貴の中にあった妙な欠落感は成りを潜め、代わりにこの自分を見つめる有を抱きたいという強い性欲が現れた。  そんなことが何度か繰り返された。

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