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俺が求めているのは★

「そんなこと、あり得ない」  突然、大貴の背後で声がした。冷たい声だった。大貴と有が声のした方へ目を向けると、もう1人の有が無表情で立っていた。 「ヒロはこっちの世界を選んだ。だから現実の世界の奴らと繋がることはできないはずだ」  そう言って、現実世界から来た有を煩わしそうに睨み付けた。 「お前、どうやって来たんだよ? 何しに来た? ヒロはお前のことなんて、もうどうでもいいんだよ」  現実世界の有は、その言葉にはっとした表情をした。 「どういう手を使ったか知らないけどさぁ。今更会いにきてどうすんの?」  そう言って、あざ笑うかのように現実世界の有を見た。  言われた有は、悔しそうな表情を浮かべて俯いて、何も答えなかった。大貴の頭は混乱していた。一体何が起きているのだろう。自分はどうしたらいいのだろう。  大貴の世界の有が、すっと大貴へ向かって歩いてきた。大貴の首に素早く腕を回すと、大貴の唇に吸い付いてきた。もう1人の有が顔を上げて、その姿に目を大きく見開いたのが分かった。  なんとか唇を離そうと有の両肩を押そうとするが、首に回った腕がまるで鋼のように固くて動かない。嫌だった。有の目の前で、例えそれが自分の創った有でも、他の誰かとキスなんてしたくなかった。 「んんっ……」  強引に舌を入れられた。舐め回すように有の舌が動く。この時はっきりと自覚した。これは俺の求めている有じゃない。俺が求めているのは。自分の思い通りにならなくても。自分のものにはならなくても。いつも強い意志と優しい心を持った、あの真っ直ぐな有だ。  唇に吸い付く有の体を外そうと腕に力を込めた。その時。  唐突に有の唇が離れていった。驚いた顔で有が後ろに引っ張られていく。大貴は事態が把握できず、突っ立ったまま動けずにいた。離れて行く有を目で追って状況が飲み込めた時、大貴はその光景が信じられずに目を見張った。 「どけ」  現実世界の有が、大貴の世界の有の肩を強引に引っ張ったのだと分かった。その現実世界の有の瞳は、いつしか大学の庭で衝突した時のあの、意思の籠もった強い瞳をしていた。  その有は、そのままもう1人の有を乱暴に押しやると、大貴の前に背を向けて立ちはだかった。

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