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第2話

 12才のリクは大人しい子供だ。    いや、大人しいどころではない。  人と話すことができないからだ。  弟のソラ相手にならいくらでも話すことができるが、家族以外はだめだ。  家族でも、今では父や母が相手だと言葉が少なくなってしまう。    上手く話せなくて、がっかりさせてしまうのでは・・・と思ってしまうからだ。  自分を愛してくれていることはわかっているからこそ。  他人の前になると口が聞けなくなる息子。  心配してくれればくれるほど、申し訳なくなってしまうのだ。  違っていてごめんなさい。    他の子達と違ってごめんなさい。  心配させてごめんなさい。  そう思っている。  でも、リクは家の外に出てしまうと言葉が出てこなくなってしまうだ。  喉に何かがつかえたかのように言葉が出てこない。  話そうとすればするほど。  声を失ってしまう。  最近では両親の前でもそうなってきた。  リクが自由に声を出せるのは、5才の弟、ソラだけだった。  まだ小学校にも行っていない弟ソラは自分の兄が変だとも思いもしない。  むしろ、楽しい話をきかせてくれる最高のお兄ちゃんだと思っている。  ソラだけが。    ソラだけには。  自分はおかしなモノではないのだ。    リクはソラの存在に救われていた。  だから。  とてもソラを愛していた。  だから引っ越してきて、すっかり落ち込んでいるソラが可哀想で仕方ない。  幼稚園の友達と別れることはソラにはかなりショックだったらしい。  リクはもともと友達などいなかったし、どうせここに来ても友達など出来ないからどこに行っても同じだと思っていたから引っ越しなんてなんてことなかった。  幼稚園で言葉が違うと笑われてかなりソラは傷ついてしまっていた。  リクはいつも通りだ。  担任が「無理に話をさせないで」と言ってくれたこと、無理にクラスメートと交流させなかったことにとても感謝していた。    皆、遠目からリクを見るだけですんだ。  このまま、関わらないでくれたならたすかる。  リクは今まで数回引っ越ししたが、最初の学校で受けたイジメをリクは忘れていない。  子供は残酷だ。  異なるものを排除し、攻撃する。  話せないリクをイジメ、笑い、暴力をふるったのだ。  リクは次の引っ越しまでその学校には通わなかった。    そして、もっとリクは話せなくなった。  この辺りから両親とも話せなくなった。  両親は「嫌ななとがったら学校なんか行かなくてもいい」と言ってはくれているが・・・。  リクは「変わった子供」を持つからこそ、色々苦悩している両親に申し訳ないと思ってた。    「あのままでは大人になっても生きていけるのか?」  「人と関われなくてはいきていけないだろう・・・俺たちだってずっと守ってはやれないんだ」  「無理させたって・・・何にもならないでしょ」  「わかってる。わかってるよ」  声を潜めて夜長に話し合う両親。  リクはそれを密かに聞いていた。  申し訳無さに胸を詰まらせながら。  変な子でごめんなさい。   心配させてごめんなさい。  ごめんなさい。   ごめんなさい。  学校に行けなかったりしてごめんなさい。  だからリクの心の支えはソラだけだった。  だから、リクは泣いて泣いて、大好きなお兄ちゃんの声さえ無視してベッドから出てこないリクを元気づけるための何かを探しに外に出てきたのだ。    珍しい虫?  綺麗な石?  変わった植物?  なんでも良かった。  前に住んでいた街より田舎な町は、川の近くで田んぼや畑もあった。  普段のソラなら目を輝かせて探検しただろうに。  二人で手を繋いで駆けたはずなのに。  リクは溜息をついた。  リクは河原にむかった。  母親に外に行ってくるとジェスチャーで示して。  「あまり遠くには行かないでね。まだ慣れてないんだから。早く帰って来なさい」  母親は言った。  母親も疲れていた。    ソラまで社会と交われなくなるのでは、と怯えているのがわかる。  ソラは大丈夫だ。  オレとは違う。  そう思ったけれど伝えられなかった。    頷いて、外へ行く。  歩いていく。  もう少しいけば土手があって、その土手の向こうに川がある。  ソラを元気づけるものが見つかるといい。  ソラが元気になったら、ソラの好きな宇宙人の話をしてやろう。  図書館で読んだ本の話をもとにして。    ソラが楽しめるようにリクが作る話をソラはとても喜ぶのだ。  リクもソラのために話を作るのが大好きだった。  ソラのために見つけた何かで、ソラのためにお話を作ろう。  リクはそう決めた。  土手をよじ登った。  そこからキラキラ光る川が見えた。    リクは土手を飛ぶように駆け下りた。  何かをさがすために。        

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