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第3話
靴を脱いで膝下くらいまでの水が流れる川で遊ぶのは楽しかった。
ソラのための何かを探しに来たわけで、遊ぶのが目的ではなかったはずなのだけど。
冷たい水の心地よさ。
川を石を跳んで渡るおもしろさ。
飛んでくる鳥が、都会ではみなかった大きな翼に長い嘴をしている鳥で、興奮した。
近寄ったらすぐに飛んでいってしまったけれど。
小さな魚も岩陰にいて、きっとソラが来たなら喜んだはずなのだ。
小さなカニを見つけて、ソラにやろうと思って捕まえようとしたけれど、逃げられてしまった。
困った。
自分が楽しんでいても意味はない。
ソラに。
ソラに。
ソラのために。
ソラが笑ってくれるように。
リクは溜息をついた。
「何しとるん?」
声が響いた。
リクはびくんと身体を震わせた。
鳥やカニや魚に夢中になっていて、人が近づいてくるのに気付かなかった。
リクは声のした方へ振り返る。
リクは何年たってもその日のことは忘れない。
その少年の目がリク背後にある太陽のせいでまぶしさうに細められていたこと。
太陽に灼けた肌。
中学生に見えた大きな身体。
屈託のない声。
「何してんねん?なあ?」
いつもなら、話しかけられたなら、怯えて逃げ出すのに。
その日は何故か逃げられなくて。
ソイツを見つめてしまったのだ。
「カニ、捕まえたくて」
小さな声が出たことに自分でもびっくりした。
「カニ?」
少年は楽しそうに笑った。
本当に楽しそうな笑顔で、思わずリクの口元も緩む。
「そんなん捕まえてどうすんねん」
少年は尋ねる。
「弟に見せてやろうと思って・・・」
リクは小さな声で言う。
自分が話せることを何故かその時は不思議におもわなかった。
「カニなんかより、ええもん捕まえさせたるわ!!来いよ!!」
少年はリクを手招きした。
リクは何故かフラフラ少年の方に引き寄せられる。
何故だか。
どうしてだか。
川の中を歩いて少年に近づく。
少年の手前で濡れた石に足を滑らせた。
あっ、と思ったが、少年に抱きとめられていた。
少年は大柄だった。
やはり、中学生なのか。
少年はリクを優しく支えてくれた。
そして、手を繋がれた。
「転けたら危ないやん。手掴まっとき」
少年は優しく言った。
リクは真っ赤になる。
まるでソラと同じ扱いだ。
そんなに小さな子供じゃない。
でも、少年がとても優しかったからその手を振り払おうとは思わなかった。
「中学生?」
リクは聞く。
自分が話せることが不思議で仕方ない。
「いや、6年や。お前は?」
少年は答えた。
同じ年か、と驚く。
「6年」
リクも答えた。
「何小?」
学校を聞かれた。
「 」
名前を言う。
少年は首を傾げる。
考え込んでいるらしい。
「オレもや。転校生か?」
少年の言葉に頷く。
「カニなんかより珍しいもん捕まえたるわ、来いや」
少年はリクの手を引いた。
リクはおとなしく少年についていく。
不思議に少年が怖くなかった。
何故話せるのかもわからないけれど。
少年に手を引かれて歩くのは。
何故か無性にドキドキしたのだった。
これがリクとアイツの出会いだった。
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