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第4話
その日、リクは物心ついてから初めて、同じ年頃の子と遊んだ。
普通の子みたいに。
石をつんで川に二人でダムを作った。
ダムというほどのものではないけれど、せき止めた場所に魚が入り込むのかおもしろかった。
はしゃぎすぎて、滑ってしまって、助けようとした少年と共に転んだ。
二人でびしょぬれになった。
笑ってたら、少年は何故か赤くなって、自分の脱いでシャツを被せてきた。
濡れたシャツの上に濡れたシャツ?
不思議に思ったが、少年は早口で言った。
「白いシャツだと透けるだろ」
男同士でなんでそんなことを気にするのか、それよりなんで自分は上半身裸なのはいいのか、色々気になったが、でも少年と遊ぶのは楽しかったらから、まあいいかと思った。
そのまま少年の大きな黒いTシャツを着て二人で遊んだ。
少年はまぶしそうに何度も目を細めてリクを見た。
もうリクは太陽を背負っているわけではないのに。
「何かついてる?」
顔に泥でもついているのかと思った。
「お前・・・めっちゃ綺麗な目してるなぁ」
少年は照れくさそうに言った。
それがなんたか恥ずかしい気持ちになってしまったのは何故だろう。
そのくせ胸が熱くなる。
「あ、ありがとう」
リクはお礼を言った。
誉めてくれたのだから。
「うん・・・こんなん思ったん初めてや」
少年は顔を赤くしてもじもじしたから、何故かリクも赤くなった。
「名前教えて」
思いついたように少年は言った。
でも早口だったから、聞こう聞こうとしていたのがわかった。
だってリクも聞きたかったから。
「リク」
名前をいうのがやっとだった。
「 」
少年も自分の名前を言った。
リクはその名前を繰り返した。
大事な響きがした。
少年は名前を呼ばれて何故か悶絶していた。
少年は川に仕掛けていたペットボトルを利用して作った罠で捕まえた魚を見せてくれ、弟に持って帰れと言ってくれた。
日が暮れかけていた。
リクはソラのことを思い出した。
ソラのために出てきたのに。
早く帰らないと。
少年にそう言った。
少年はちょっとがっかりした顔をした。
「でも学校で会えるか」
ブツブツ少年はつぶやいた。
ソラへのお土産のペットボトルで捕まえた魚は、バケツに少年が入れてくれた。
「シャツ・・・」
リクが返そう脱ごうとしたら、止められた。
「また会った時に返してくれや。バケツもな」
少年は笑顔で言った。
その笑顔にまたリクの胸はあたたかくなったのだ。
リクも笑った。
はしゃいで笑った時とは違う何かが、リクを微笑ませている。
リクが笑うと少年は何故かまた赤くなった。
「明日・・・学校でな」
少年はかすれた声で言った。
ちょっと食い入るように見てくる目が怖くもあったけど、少年はとても優しかったから。
「うん」
リクは頷いた。
嬉しかった。
こんな会話が出来ることがあるなんて。
リクは、ソラに早く魚を見せようとバケツを持って家に急いだ。
ソラは喜び、新しい家の庭にある池に魚を放した。
ソラは笑ってくれたし、リクは生まれて初めて明日学校に行くことが楽しみになった。
明日が来るといい。
明日が。
そう思いながらベットにはいった。
母親が洗って乾燥機にかけてくれた少年のシャツを撫でた。
畳んで枕元に置いたのだ。
明日わすれないように。
また会える。
それはとても嬉しい事だとしった。
「 」
少年の名前を呼んだ。
その名前はとても。
暖かかった。
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