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第10話
少年の隣りに少女が立つ。
背の高い少年と並んでも、頭一つ位しか変わらない少女は年上の中学生だとしても背が高い方だ。
二人は並ぶと良いバランスに見える。
大人並みにある少年の身長(それでもまだ伸びている)と並べばリクなんて子供みたいだ。
まあ、子供なんだけど。
少女はバスケ部なんだ、とリクに言った。
部長なんやで、とも。
キリンって言われてる、と少女はわらうが、長い髪をキリッとまとめた少女はリクから見ても凛々しくてかっこよかった。
少女はリクや少年より一つ年上の中学生。
少年の幼なじみ。
近所のお姉さんなんだ、と少女は自分でリクに説明した。
リクとソラそして少年の3人で遊んでいた時、初めて少女が現れたのだった。
「何してるん?」
そう笑いながら少年に言ったのだ
屈託なく笑いながら、土手を駆け下りてきて。
土手の上の道に自転車を倒したまま。
少年は眉をひそめて不愉快そうな顔をした。
だから、とても仲良しなのだとわかった。
不快さを顔に出してもいいくらい。
少年は、リクには優しい。
遠慮がわかるほど優しい。
腫れ物に触るようでさえある。
それは少年とリクの埋められない距離だ。
それはこの少女との間にはない。
「こっち来んなや!!」
少年は舌打ちして少女に言う。
「なぁなぁ、何してるん?」
少女は全く気にしないで、リクとソラに話かける。
ソラは新しく現れたお姉さんに恥ずかしそうにしていた。
リクも声が出ないから少女を見つめるだけだ。
「見たらわかるでしょ、凧あげてる」
返事をしたのはソラだった。
少年とリクとソラは、リクが作った凧を河原で揚げていたのだった。
ビニールとストロー、そして凧糸代わりの木綿糸で作ったリクの凧は作ったリクも驚く位高くあがったのだった。
「ほんまやぁ、手作りやねんね」
少女は眩しそうに空に揚がる凧を見つめた。
「帰れや」
少年がぶっきらぼうに言う。
「何それ、ヒドイ」
少女はケラケラ笑った。
リクは驚く。
だってリクが同じことを言われたなら、リクは苦しくなってしまう。
少年と少女の間には、何を言っても崩れない信頼関係があるのだとわかる。
「あんたが作ったんやろ?コイツ不器用やもん」
少女はリクにむかって微笑んだ。
優しい笑顔だった。
リクは話かけられて、固まる。
手を放しかけた糸をソラが「ダメっ!!」と言って掴む。
ソラはもう現れたお姉さんにも、リクにも少年にも目をくれず、空を揚がる凧を夢中で見つめている。
「・・・わぁ、あんた綺麗な子やね。女の子?」
少女が目を丸くしてリクの顔を覗き込んでくる。
リクは真っ赤になって口をパクパクさせた。
「・・・どうでもいいやろ!!邪魔すんなや!!」
少年がリクには絶対にしないぶっきらぼうなに少女に言葉を投げつける。
でも少女はわらうだけだ。
「あんまり遅くならんようにしーや。おばさんに怒られるで」
少女はお姉さんぽく言った。
「わかってるわ」
少年は口を尖らせる。
リクの前では見せない顔。
少女は凧に夢中なソラの頭を自然になでて、リクに向かって目で笑う。
引き込まれるような表情はいつも緊張しているリクではきっと出来ないものだった。
憧れと劣等感か同時に胸に灯った。
少女はリクの肩も自然に叩いて、手を振った。
もう、行くよ、と古くからの友達みたいに。
他人が怖いリクはそれを嫌だと思わなかったことに自分で驚いていた。
少女は距離が近いのに、嫌な気分にならない。
両親にさえ、身体を触らせないリクなのに。
でも。
少女は少年には触れなかった。
親しいのに。
互いに遠慮ないのに。
少年も、少女に遠慮ない言葉は吐き捨てるのに、少女との間の距離を詰めようとはしなかった。
少年は二人きりならばリクの肌を貪るのに。
二人きりじゃなくても、こっそり触れてくるのに。
少女と少年の間には緊張感があった。
確かにあった。
リクはそれに気付いて。
気付いたのにその意味がわからなかった。
去っていく少女に不自然なまでに目をやらない少年。
土手の上から自転車に跨がりながらこちらを見つめる少女。
リクにはわからない。
わからないけど。
そこには何かがあることは感じたのだ。
初めて少女と会った時から。
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