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第14話

 リクが目覚めたのは、暖かな少年の背中の上だった。  少年はリクを背負い歩いていた。  目覚めるのと同時にリクは少年の背中を叩いて暴れた。  少年が驚いたように手を離す。  リクはずり落ちる。  地面に転がったリクに少年は手を伸ばす。  その手をリクは叩き落とした。  「リク・・・リク・・リク」  少年は困ったように、泣きそうになりながら、リクの名前をくりかえす。  それは、少女にリクを見せつけられる時に繰り返した言い方と似ていてリクは羞恥と怒りで真っ赤になった。  少女の目の前で。  リクを乱れさせ、白濁を出させるところまで見せつけのだ。  少年は。  それを今、理解したから。  それは。  それは。  少女への歪みきった感情からだったと今ははっきりリクはわかっていた。  それが何なのかはわからない。  でも少年には少女は特別な何かで、だからこそ少年は少女にあのとき、リクとこうしていることを見せつけなければならなかったのだ。  あの時。  あの時だけは。   少年は少女のためだけにリクを抱いていたのだ。  リクの身体は、少女に捧げる生け贄だったのだ。  「リク・・・」  痛みに満ちた少年の目がそれを証明していた。  後悔と苦さがその目にはある。  リクは立ち上がる。  ヨロヨロと。  吸われ弄られた乳首が熱を持っている。  散々擦られた性器は痛みすらある。  それは。  屈辱を思い出させた。     少年としていたことはリクには甘い秘密だった。  少年と二人で持つ秘密だった。  それは。  少年とリクだけの絆だった。  少年だから許した。  逃げなかった。  溺れた。  でも。  少女が現れた時、少年は秘密を少女へ向かって使う道具にしたのだ。  リクを利用したのだ。  少年と自分の間に流れる感情を理解出来ないリクに、少女と少年の関係など理解できないだろう。  でも。  でも。  少年のしたことは。  裏切りだった。  裏切りでしかなかった。    「リク・・・」  名前しか呼べない少年の頬をリクは思い切り殴った。  「!!」  殴った拳の痛さにうずくまったのはリクだった。  人を殴ることさえ出来ない自分をリクは呪った。  「リク・・・」  少年は殴られた自分より、殴ったリクを案ずる。  それがリクの気に触る。  近づいてくる少年をリクは思い切り蹴飛ばした。  でも。  少年はよろけた位だった。  悔しくてたまらない。  何も。  何もやりかえせない。  それでもでたらめにリクが振り回す腕や脚を、黙って少年は受け入れていた。  うなだれたまま。  とうとう泣きだすリクを少年は困ったように抱きしめようとした。  その手を払う。  許せない、その気持ちを初めてリクは知った。  色んな感情が初めてだった。  屈辱も。  羞恥も。  怒りも。  そして、悲しみも。    リクには少年しかいなかったけれど。  少年には少女がいたのだ。  リクには理解出来ない在り方で。  あんな難しい感情リクには理解できない。  でも。  でも。  いたのだ。  ずっと。  それを酷いと思った。  酷い。  酷い。  なんて酷い。  殴り疲れてへたり込むリクの側に少年は膝をついた。  「リクがおったら・・・リクがおるから。もう逃げられる思ったんや。アイツ以外に心が動いたん初めてやったんや。リクしかオレを逃がしてくれへん。酷いのは・・・わかってんるんや・・・でも。リクだけなんや!!」  少年が呻く。  「最初リクみて女の子やとおもった。この子なら好きになれるってわかった。男やってわかっても、かまへん思った。だってリクだけなんや。アイツ以外ではリクだけなんや。オレは・・・オレは・・・アイツから逃げたい・・・」  少年が泣いた。  少年は本気で怖がっていた。  少女を。  愛することを。  何故。  何故そこまで。  男の、しかも、人と交流することもできないリクより、あの少女の方が選びやすいだろうに。  リクにはわからない。  でも、わかりたくなかった。  悔しさと傷み。  何よりそれでも少年が好きだという思い。  こんな時でさえ。  なんて屈辱。  リクは思った。  ここを出る。  こんなところにはいない。  いてたまるか。  「リク・・・」  泣いてのばされる少年の指は甘い。  この指を取りたいという気持ちがある。  でも。  でも。  声も出ない。  人と交われない。  そんな自分にも、許してはいけないことがある。  少年のしたことは間違いで。  許してはいけないことだ。  間違いなのは、密やかな二人の淫らな遊びじゃない。  甘やかにくりかえされた、肌の触れ合いじゃない。  間違いなのは、少年が少女へリクを捧げたことだ。  リクの気持ち。リクの羞恥。リクの痛み。     だから。  リクは少年を睨みつけ、その手を拒否した。  うずくまったのは少年だった。  リクは立ち上がる。  ヨロヨロと。  自分の脚で。  そして。  少年に背を向け歩き出した。  そして、リクは一人家に帰り、二度学校へは行かず、そこに住んでいた2年、家からも出ることはなかった。          

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