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第15話

 「兄さん、出かけてくるよ」  ソラが言う。  ソラはもうすぐ高校生になる。  「いってらっしゃい」  リクは仕事を中断して立ち上がった。  玄関まで見送るのが習慣だ。  ソラを見送り、ドアをしめた。    数年毎に引っ越しする生活を2年前に止めた。  ソラが嫌がったのだ。  リクにはどこにいても同じなのだが、ソラが嫌ならなんとかしてやりたい。  だから、ソラが離れたがらないこの町にリクが定住することを決めた。    両親はソラとリクがこの町に残ることを許してくれた。  両親にはプロジェクトの度に移り住む生活が必要なのだ。  彼らには大切な仕事で生きがいだから。  今のリクは大人の男だから、一人で生きられるし、ソラの保護者にもなれる。    他人の前で声が出ることは今でもないが、それ以外は多少内気ではあってもリクはきちんと対応できるようになっていた。  スマホの画面で文章を打ち出し他人に意志を伝えられるし、もう不必要に人に怯えたりはしない。    家からでなくなり、引きこもる中で手慰みではじめた木彫りそれがきっかけになった。  外の世界と完全に切り離されることを恐れた両親のすすめで、それをSNSで発表していたところ、評判になっていった。  動物と植物が融合したようなモチーフをリクは彫る。  人間と植物が融合したようなものもある。  現実には存在しない存在を形にして、滑らかに整えている。  触れても感じられるように。  小さなものだ。  指先ほどの。  欲しがる人達が現れた。  綺麗、不思議、エネルギーを感じる、と。  それを母親のすすめで、アクセサリーにして販売してみたら、すぐに売れていく。  手作りだし、時間がかかるので決して安くはない値段だが、それでも売れたのだ。    今はリクはかなりの収入を自分で稼いでいる。  予約も受け付けてない、作ったものを出来た時に早い者勝ちでネットで売るだけだが、あっと言う間に売れてしまう。  取材やネット以外の注文もあるのだが、それらは全て断っている。  淡々と作り続けている。  欲しがる人達が沢山いるから、リクは頑張り作業のスピードはかなり上がってあるが、全ての人に届けられそうにはない。    とにかく。   リクは両親を安心させた。  自分で自活できるようにはなったのだ。   休みがちだったが、一応高校までは卒業した。  ちゃんと自分で稼ぎ、自分のことは全て自分で決めて、自分で生活しているし、ちゃんとソラの面倒だってみている。      ソラは今でも変わり者の兄を慕ってくれているのだ。  二人で静かに暮らしている。  ソラは友だちがいるこの町が好きで、兄と住むのも好きなのだ。  作業と読書ばかりの生活で、散歩がてらに向かうのは図書館だ。  映画館にもいく。  友達もいる。  ネットで繋がる友だちだが、それでも本の話や映画の話で盛り上がれる。  実際に会おうとは言ってこないからこそ信頼を感している。  静かな毎日。  流れて行く時間。  リクは満足していた。  変わり者の口のきけない創作作家。   変わっているが綺麗な顔をしていて人畜無害。  町の人達はリクをそれなりに受け入れていたし、リクもこの町がそれなりに好きだった。  一々関わってこないことこそが。  リクはここで朽ちてしまいたいと思っていた。    自分が作り出すモチーフのように。  植物と融合した人間のように。    ここに生えてここで枯れたい。  植物のように。  動物よりも植物のように生きたいと、リクは思っていたのだった。                        

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