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第17話
ソラが携帯電話片手に誰か相手にはしゃいでいるのが食事の準備をするリクに見えた。
そんなに嬉しそうなのは珍しい。
ソラは引っ越しに引っ越しをかさねた結果、多少気難しい性格の少年になってしまった。
この町に居続けられるようになってかなり落ち着いたけれど、何度も何度も友達との別れを繰り替えさせられたせいで、人間に対して距離をとり、冷めた皮肉っぽい態度をとるのだ。
自分とは違って明るくて社交的だったソラがそうなってしまったことをリクは悲しく思っていた。
だから。
この町に留まれるようになれば。
ソラの別れの繰り返しで傷ついた心はいやされるのではないかと、リクは願っていた。
ソラがこの町に留まるためにリクは自分で全ての準備を整え、家を借り、両親を説得したのだ。
創作以外は何一つ自分からは成そうとしなかったリクが自らのぞんで動いたから、そこまでしてみせたから、両親はまだ中学生のソラをリクに任せたのだ。
リクはソラを愛していた。
兄弟だからなのは当然で。
この世界で自分を愛してくれる数少ない存在だからではなく、自分が知ることもなく、そして自分を受け入れてくれない世界の人間だとしても愛していた。
ソラがどうしたらその世界で幸せになるのかリクにはわかない。
でも、ソラを幸せにしたいと願っていた。
祈るしか、リクにはできないのだけど。
可愛い弟にしてあげられることがリクにはほとんどないのだ。
だからやれることは全てしてやりたかった。
でも。
今、ソラは笑ってる。
リクはそれに満足した。
笑顔でリクは食事を装い、低く歌った。
リクは歌える。
ソラとふたりのこの家の中では。
「今度来てくれるの!!嬉しいな!!じゃあ待ってるね」
ソラは嬉しそうに電話を切った。
そして、嬉しそうに食事の支度の手伝いをする。
台所からリビングに食事を運んでいく。
「お友達が来てくれるの?泊まっていく?」
リクは訪ねる。
ソラの全国に散らばった友達が長い休みの時に泊まりに来ることはわりとある。
ソラは友達が大好きで大切にしてきたからだ。
だからこそ、別れにいつも傷付いたのだ。
リクはソラの友達が来た時は食事の準備などはするが、基本関わらずそっとしている。
あまり夜遅くまで騒いでいたら、ドアをノックしたりはするが。
「ううん、泊まりには来ないけど、ちょっと寄るって!!」
ソラは本当に嬉しそうだ。
ソラは少しずつ元気になって来てるから、きっともうしばらくしたら元の無邪気なソラに戻ってくれるだろう。
「そう。良かったね」
リクは微笑む。
ソラも笑う。
「兄さん・・・あのね」
何か言いかけて止めた。
「何?」
気になった。
「また今度!!」
ソラは秘密を楽しむ顔で言った。
この顔になったら絶対にソラは話さない。
だからリクは気になったけれど諦めた。
でも、良いこと何だろう。
リクにとっても。
リクがソラを思っているように、ソラもリクを思ってくれているのだ。
こんな不出来な兄でも。
「受験生なんだから、ほどほどにね」
リクはそうは言うが、ソラは優秀だ。
どんな学校にだって行けるのはもうわかっている。
「大丈夫」
ソラが笑う。
冷めたような目をしていたこの一年で今日が一番楽しそうかもしれない。
「そう」
リクはまた微笑んで、二人は夕食を食べ始めた。
静かに話しながら。
ソラとでしか有り得ない時間。
リクは幸せだった。
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