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第19話

 抱きしめられたなら、身体が溶けてしまうかと思った。  あの少年の匂いじゃない、大人の男の匂いはリクの頭をクラクラさせた。   ムスク?  何?  脳を溶かす匂いが、ボタンを外したシャツの胸元からする。  リクと同じ年なのに。  リクより遥かにコイツは大人なのだ。  あの頃と同じで、リクなんかよりずっとちゃんと男で、大人なのだ。  無意識に顔をすりよせながら、リクは悔しさに唇を噛んだ。  震える腕がリクを抱きしめている。  リクはそこまで小柄ではない。    細身だが、170近く、はある。  一応。  だが、コイツは・・・180を余裕で超えるだろう。  太い腕も厚い胸も。  しっかりと立つ脚も。   全てがリクとは違う力強さがあった。  「リク・・リク・・・リク・・・」  名前を繰り返す声さえ、低く力強い。  リクは溶け合うように抱きしめられていた。   ソイツはリクの首筋に顔をうずめ、リクの匂いを夢中で嗅いでいた。  「リク・・・会いたかった・・・会いたかった・・・」  震える声に思い知る。  自分も会いたかったことに。  でも、でも。   なぜ?  突然。  なぜ。  そして、気付く。  ソラだ。  ソラは。  リクとあの少年が会わなくなっても。  リクが家から出なくなっても。  少年と会い続けていたのだ。  ソラは少年を慕っていたし、あの小さな町で普通に暮らしていたのだ。  それに。  誰も、少年とあの少女以外はあの日あったことを知らない。  リクが何故引きこもってしまったのかも。  ずっと。   ずっと。   ずっと。    ソラはあの少年と繋がり続けていたのだ。  無邪気に慕いながら。  ソラには3人で遊んだ楽しい記憶しかないから。  「ソラは、悪ない。ソラは・・・何も知らんから。オレが頼んだんや・・・大丈夫や、ソラはオレの兄貴がソラの友達と一緒に映画やらなんやら連れて行くことになってる。ちゃんと保護者付きや心配ない」   アイツは早口で言う。  ソラを利用したことを認めて。    「オレは・・・オレは・・・もう止められへんかったんや、お前に会いとうて・・・会いとうて」  強く抱きしめられて、息が止まりそう。  リクは何が何だかわからない。  「ごめん・・・ごめん・・・リク」  抱きしめられたまま、またドアを開けられ、家に押し入られた。  後ろ手で鍵がかけられ、リクは怯えた。  「リク・・・オレはもう無理や。無理なんや・・・」  玄関でリクは押し倒された。  でも、頬を撫でるその手は優しくて。  遠い昔の、廃れた神社の樹の下にリクは引き戻されていた。  少年のやること全てを受け入れていたあの頃に。    

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