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第25話

 「リク、ゴメン、リク。オレはリクを傷付けた」  震えながらアイツが言う。  横たわるリクの側で跪き、うなだれ、泣きながら。  少女と自分の関係を簡潔にアイツは説明した。  恋していた相手が実は自分の姉だったのだと。  そんな時にリクに会ったのだと。    「許さないでもいいから。リクの側に置いて。オレ、リクから離れられないんや」  許しを求めた。    リクが引きこもった時、少年はリクの両親にもリクに会わせて欲しいと頼みこんだ。   でも。  リクは拒否した。  両親は理由も言わないリクの意志を尊重した。  家から出ようともしないリクの態度も。     少年には関係ないとするリクの主張も。  両親はリクを見守ってくれたのだ。  でも、少年は家を訪れ続けた。  毎週毎週、きちんと。  会わなかったのはリクだ。  傷つきすぎていた。  何を聞けと?  好きなのはあの少女で、少女をきずつけるためにリクを使ったこと?  そんなことを聞いて謝られてどうする?  だからリクは会わなかった。  「会いたかったんや。許してくれなくてもいいから、リクに会いたかったんや」  震える声。    リクはアイツを見つめる。   大人になったアイツを。  こちらを見ようともしないで、跪き話し続けるアイツを。    「さっきだってあんな風にするつもりじゃなかった。オレはただ、リクに会いたかっただけやった」  ボソボソと呟く。    「ソラに頼んで近況をずっと教えてもらってたんや」  アイツは打ち明けた。    「側に置いてくれ。置いてくれるだけでいいんや、もう二度とさわったりせん。たまに会えるだけでええ・・・」  押し殺した声がアイツの喉から漏れる。  大きな男が子供のように泣くのをリクは不思議な気持ちでみていた。  いや、泣いてるのはあの日の少年。   リクを傷付けたあの少年なのだ。  許せなくて。  でも。  会いたかった、でも、会いたくなかった、あの少年。  リクは悩む。  悩み続けてきた。    リクはアイツの手を掴んだ。  アイツはビクリと身体をふるわせた。  まるでリクの手が焼いた鉄棒であるかのように。  リクは迷いながらアイツの目を覗き込む。  アイツは目をそらさなかった。  涙を流し続ける目にはリクだけが映る。  リクはアイツの手をとった。  そして、その手のひらに字を書いた。  「オレだけ?」  そう書いた。  アイツは顔を歪めて頷いた。  「リクだけ、リクだけや。オレはリクだけや・・・」  その言葉には嘘はなかった。  あの少女を選ぶ選択肢がなかっただけだとしても、それは事実だった。  でも少女はいる。   今も。  過去も。  その先も。  アイツの中に刻み込まれている。  リクは。  リクは。  それでも。  起き上がり、腕をアイツの首に絡めた。  戸惑うアイツに、リクは初めてのキスをした。  唇をそっと合わせるだけの。  何故か火に触れたように唇を熱く感じたのだった。  オレのだ。  そう思った。  この男はオレのだ。    リクが生まれて初めて執着したもの。  深く傷つくほどに。  そう思い知った。    渡さない。  渡さない。  あの少女にも。  あわせて離れるだけの口付けにアイツは呆然とされるがままになっていた。    リクは唇が離れた後、アイツの胸に顔をうずめた。  そして、声をあげたアイツに抱きしめられた。    「リク・・・リク・・・リク」  アイツはリクの名前を繰り返すだけ。    その日。  二人はただ抱き合ってそのソファで眠った。  ただ抱き合うだけで。  リクが生まれて初めて、何かを決意した日だった。    離さない。  そう決めたのはリクだったのだ。                         

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