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第26話
リクに恋人が出来た。
リクの初めての友人で、初めての恋の相手で、初めて身体を触らせた人間で、初めて裏切った人間で、初めてのキスの相手で・・・。
まあ、この順番が滅茶苦茶なのは置いておく。
リクの色んな初めてはこの恋人なのだ。
とにかく二人は文通から始めることにした。
なにしろ。
二人はろくに会話さえしたことがないのだから。
リクの苦手な会話形式のラインやチャットより、手紙形式でまず互いを知り合うべきではないか、というリクの提案に恋人は喜んで同意した。
多分。
何を言っても同意したと思う。
なんといっても、恋人に昇格したのだから。
まず、3日に一度のメールから始めることになった。
普段会うのは距離的に無理だったし。
恋人はまだ大学生だったし、リクが今住む町から離れた町に住み、そこの大学に通っていたからだ。
あの少女がいる町に恋人がいないことにリクは内心ホッとした。
恋人の浮かれっぷりはわかりやすかった。
ソラが帰ってくる前に浮かれながら、家中の掃除をし(特に二人の体液で汚れた玄関を)、お祝いだとご馳走を作り始めていた。
友人達と別れて(恋人の兄が友人達を連れ帰ってくれた)帰ってきたソラは目を丸くした。
自分の兄と、長年慕ってきた幼なじみのお兄さんが恋人になっていたからだ。
極めてリアリストの両親に育てられ、変人の兄と共に育ったソラはそんな現実を冷静に受け入れた。
それに。
まあ。
恋人の執着っぷりからそうではないかと。
思っていたのだ。
リクがそこまで受け入れるとは思っていなかったのだが。
10年仲直りを拒否していたのだし。
「まあ、また3人で会えるのは嬉しいよね」
ソラは肩をすくめて、恋人が作ったご馳走を頬張った。
恋人はリクに必要以上に触らなかった。
初めて女の子を意識した少年みたいに、リクの身体を意識しまくっていた。
でも紳士的に振る舞おうとする必死さにソラは半笑いになってしまったほどだった。
リクの側にいたがるくせに、一ミリでも触れないようにするから、動きがおかしくなるのだ。
リクも恋人なんかいたことがないからどうしたら良いのかわからない。
ただでさえ、シャイなリクは抱き合って眠っていたくせに、もっとすごいことさえしていたくせに、目さえ恋人と合わせられなくなっていた。
恋人がうわずった声で、意味のないことを話しかける度に、オロオロと視線を宙に漂わせたり、助けを求めるかのようにソラを見つめるのだった。
ソラもここで半笑いになった。
「まあ、お似合いだよね」
ソラだけは恋人の作ったご馳走の味をわかって楽しんだ。
ほかの二人は食事の味さえわからなかっただろう。
帰る時、やっと握手を交わした二人がまさかこの玄関で抱き合い互いの体液を出し合っていたとはソラは思いもしなかった。
とにかく。
二人の関係はそうやってやり直すところから始まったのだ。
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