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第28話

 土日を利用して、恋人がリクに会いに来たこともある。  前日から動揺しきったリクは、気を使って両親のところへ泊まりに行こうとするソラを逃がさなかった。  「なんで、恋人と会うのに弟がついてやらなきゃいけないんだよ」  そう言うソラの背後にかくれて、駅まで恋人を迎えに行ったし、恋人と楽しげに話すソラの横から盗み見するように恋人を見つめた。  恋人はそんなリクに呆れた態度も見せず、むしろ、ホっとしたように、ソラと仲良く話して、時折食い入るようにリクを見つめた。  こわい位。  「やだ、この人達」  ソラが何度も呆れたように呟いた。  恋人は泊まっていきさえしたが、ソラの部屋の床で寝ると言い張り、リクには必要以外に近寄ろうともしなかった。  あれほど手紙で語りあっているのに、二人はほとんど会話さえないまま、だった。  ソラの陰に隠れて、恋人を見送りながら、リクは安心したような。  残念なような気持ちになった。    でも、別れる間際の握手だけは逃げなかったし、やはり恋人の目は怖い位で、でもそれが切なくもあって。  「あの人滅茶苦茶モテるんだよ。いいの?そんなんで」  などと、ソラに後で色々言われたりもし。  リクは恋人をもうはなさないと決めていたからこそ。  悩んで悩んで。  それでも頑張ることに決めたのはそんな生活が半年ほど過ぎた頃だった  「次の冬休み、あなたのところへ行ってもいいですか、泊まってもいいですか」  メールの最後に付け加えた。  震える指で。  そこには色んな意味があったから。  その日のメールだけはすぐにかえってきた。   短いメールが。  「待ってます」  送信先の恋人が、窓を開けて叫んでいたことまではリクは知らなかった。    でも。  「待ってます」  その言葉の意味が本当なのはわかった。  ずっとリクが許すのを待っていた人。  ずっとリクが心を決めるのを待ってた人。  まあ、待ち切れてなかったところもあったけれど。  キスは自制できても、触るのは我慢できないとか。  でも。  待たせてきたから。  本当に恋人になりたいと、リクは思ったのだった。  リクは小さな魚のモチーフを彫った。  初めて会った日、少年だった恋人が捕まえてくれた小さな魚を思い出して。   それは売り物ではなく。  恋人に渡すためのものだった。    気持ちをこめて。     リクは彫った。   あなたにあげれるものがあるのは嬉しい。  そう思いながら。    

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