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第30話

 「リク・・・」  恋人が背中を撫でる。  先ほどまで酷いことをしてきた男だ。  痛くて苦しい行為は一度では終わらなかった。  恋人が止まれなかったのだ。  ごめん、ごめん、と繰り返されながら、何度も何度も貫かれた。  揺さぶられ、泣き叫びながら、それでもリクは止めてとは言わなかったのだった。  恋人の熱くなる身体が。  灼熱の身体を貫く杭が。  自分を灼く眼差しが。  それでも欲しかったのだ。  快楽に流されないからこそ、恋人への気持ちを自覚したのだった。  中に何度もだされた。  満たされたいと願った。  恋人が欲しかった。  痛くても。  苦しくても。  だからこそ、この行為には意味があった。     「リク、ごめん」  でも。  恋人は悔やんでいる。  リクには快楽などなかったとわかっているから。  苦い声は後悔の印だ。     でも。  同時に嬉しそうでもある。  リクが耐えた理由もわかっているからだ。  「ホンマにオレのこと。好きなんやな。リク」   声が震えているのは。  喜びすぎているからなのは、リクにだってわかる。  「人を怖がるリクが・・・ここまでさせてくれた」   恋人はリクの額や頬に唇を落とす。  また堅くなっているけど、リクはもうこわがらなかった。  次は多分、今ほど痛くない、と思う。  良く知らないけど、回数を重ねないといけないみたいな。  気持ち良くなる方が怖いかも。  「オレばっかり好きなんやと思ってた・・・」  恋人の声にリクは顔を上げる。  そこには反論がある。  リクには恋人だけだけど。   恋人こそ違ったのだし。  恋人がリクに再会するまで、誰かと付き合っていたのかもしれないのだし  「オレはリクだけや。オレの初めてはリク。だから止められへんかったし・・・痛い思いさせてもうた。リク以外は触ったことない」  言い切られて、リクは嬉しくて少し笑ってしまったのかもしれない。  「そんな顔せんで。酷いことしたなるから」  恋人が困ったように笑う。  オレだけ?  言葉にならないことをリクの目がきく  「リクだけ。リクだけだから」   そして、リクの瞳にもっと深いモノを恋人は読み込む。  「アイツとはキスをした。一度だけ。高校から町を出て寮に入ったから、それからは会ってない。オレはあの町にも帰ってない」  早口で恋人は言った。    それは事実で。  それだけのことをしなければ、二度とあの町に戻らないようにしなければならないだけのモノであることを思い知らされた。  でも。  リクは痛む身体自分の身体に喜んだ。    男同士だから、無理があったこのセックスを喜んだ。    オレのだ。  この人はオレのだ。  それはどんな快楽よりも意味があった。  「リクだけ」  恋人の言葉を信じた。     リクは笑った。  この世界に自分が愛するものがあること。  自分を愛してくれるものがあること。  手放したくないものがあること。  譲れないものがあること。  この鮮やかな感情。  世界の意味を変える想い。  これが恋だと自覚したから。  「そんな風に笑わんで・・・酷いことしたなる」  恋人が苦しそうに言った。    リクは自分から恋人の熱い性器に指を伸ばした。   欲しくなったのだ。  それが苦痛であっても。  だってそれがこの男を手に入れる方法だから。    「リク・・・ダメやって」  恋人が呻いた。  リクは恋人の首筋を吸った。  恋人の身体を味わいたくて。  性器に指を絡め、滑らせながら。  赤い印をつけてリクは満足した。    「オレのだ」  リクは恋人に囁いた。  まっすぐに見つめながら。  ベッドの中でなら言える。   抱き合い身体を触れ合っている時になら。  恋人はリクの目に射抜かれ、そして、動物のように呻いた。  「いいんやな」    恋人が唸った。      「して・・・もっと深く・・・オレを犯して」    リクの声に狂ったのは恋人だった。  止まらなくなっても、リクの苦痛に苦しみ、それでも止まれなかった恋人が完全に理性をなくした瞬間だった。  脚を担がれ、思い切り貫かれた。    何度も貫かれ、出された場所は、最初よりはるかに容易く恋人を受け入れた。    でも、まだ苦痛だけだった。  でもその苦痛は。  恋人を手に入れるためのものだったから。  リクは微笑みさえ浮かべた。  灼かれたかった。  そのためになら、焼き尽くされてもかまわなかった。  

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