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第31話

 結局リクの訪問は、恋人がリクを甲斐甲斐しく世話をする休日になってしまった。  リクは寝込んでしまったのだ。    身体を強ばらせ、耐え続けたせいなのか、慣れない無理な体勢のせいなのか、身体中が痛んで足腰立たなくなってしまったのだ。  裂けたかと思った穴の方は恋人か熱心にほぐしてくれたおかげか大したことはなかった。  恋人は嬉しそうだった。  風呂にリクを入れたりトイレに連れていくことから、食事を作って食べさせることまでを、満面の笑顔でしていた。  自分で食べられると言ってるのに、一口づつ口にスプーンに運んでくるし、身体を洗うのは自分で出来ると言ってるのに全身余すとこなく洗われた。  熱をもった穴に軟膏を治療だと言って塗られた。  中まで。  貫かれた時は痛かっただけなのに、リクはその指に喘いだ。  恋人の指に怖くなるほど感じるところを見つけられ、前がそそり立つほど感じてしまった。      「次は、中で気持ち良くなろうな」  恋人はまだ中だけではいけないリクの性器を扱き、射精させてそう囁いた。  リクは恥ずかしさに泣いたけれど、小さく頷いた。  恋人が自分だけ気持ち良くなるのが嫌なのがわかったから。  恋人は自分の快楽でリクが傷ついてしまったことをものすごく気にしていた。  リクにしてみれば、恋人を手に入れる喜びの方が大きかったので気にすることではないのだけど。  「オレの、リク」  恋人がそう言って照れくさそうに笑う。   恋人がリクのものであるように、リクも恋人のものなのだ。  それが嬉しかった。  抱きしめられながら眠った。  数日の休暇は。  ほとんど寝込んでいたけれど、これほど幸せな数日はなかった。    改札口まで送ってくれた恋人の首には、リクが贈ったペンダントがあった。  リクが創った。  指先ほどのペンダントトップ。  恋人がリクのために捕ってくれた小さな魚をモチーフにしてリクが彫った。  恋人はちゃんと魚の意味もわかってくれた。  リクが震える指で恋人にペンダントをつけた時、恋人は何度もペンダントにキスをしたのだ。  リクにキスするみたいに。  「卒業したら。リクの町に住むから。それまで待っていて。リクと、ソラと」  恋人は自分の将来にリクとソラを加えてくれていた。  さ迷う生活をしないと決めたリクとソラのために、自分がリクとソラのもとに来るつもりなのだ。  リクにしてみれば、それは恋人の将来を縛ることになるのではと思ったが、恋人はそれを笑いとばした。  「ネットで繋がる社会や。お前の親御さん達みたいに特殊な技術者でもない限り、どこに住んでいてもなんとかなるもんや」  恋人の「バイト」も自宅でパソコンでしているのでそうなのだろう。  リクの商売もネットでしているのだし。  でも、木彫りというアナログな仕事で生活しているリクには、恋人のしていることは説明をうけてもサッパリだった。  「オレのしたいことはお前とおることや。待っててリク。後少しだから」  心から言われて、リクは改札口で泣いてしまった。  嬉しくてたまらなかった。  この世界に自分といることを願ってくれる人がいるなんて。    また人前で抱きしめられた。  恋人も嬉しそうだった。  「オレのリク。おれの」  恋人の声は甘い。  オレの、オレの恋人。オレの。    リクも恋人にしがみつき、その胸で泣きながらそう思った。  離れて暮らす、切なささえ甘い。    幸せだった。  本当に幸せだった。  だから。  その先おこることなんて、予想できるわけがなかった。                                        

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