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第32話
「何で許されると思うの?なんで?自分達だけ?そんなんありえへん」
女は笑った。
濃い化粧。
痩せてやつれて。
何か薬物でもしているのか、目だけがキラキラと輝いていた。
それでも女は美しかった。
今もなお。
中学生だった少女の優しい風のような爽やかさの代わりに、妖しく人を引きこむ艶やかさを纏っていたけれど。
むき出しの腕に刻まているのはリストカットの痕。
彼女が地獄の中にいるのは間違いなかった。
露出の多い服を着た、その白い肌には沢山のタトゥーが刻まれていた。
髑髏や死体、植物をつかった残酷で美しいモチーフは普段ならリクの興味をひいたかもしれない。
でも、今は不吉なデザインを好む女が怖かった。
「リク・・・あんた、今でも綺麗。いや、前より綺麗」
女はリクの頬を撫でて囁いた。
リクは怯えたまま女を見つめる。
リクはベッドの上に縛られ固定されていた。
身体が動かないのは女が飲ませた何かのせいだ。
この部屋はおかしい。
やたらたと丈夫そうで大きなベッドしかないし、窓もない。
そもそも手足を拘束する鎖や手錠が設置されているベッドそのものがおかしい。
「・・・ここね、そういう趣味の人達が使う部屋なんや。いくら声出しても・・・誰も来てくれへんよ。そういう人達が使ってるとしか思われてへんから」
女の鮮やかな色に塗られた唇が歪んだ。
反射でその鮮やかな赤色の口紅は、玉虫色に光った。
リクの服は女がナイフで切り裂き取り除かれて、リクは真っ白な身体を剥き出しにされていた。
細い女の指は真っ赤なネイルで彩られ、それが白いリクの肌の上を滑る。
女は指はリクの乳首の上で止まった。
自分でも弄り続けてきたし、恋人にもそこで苛められ、責められ続けているため、リクの身体の中でもそこはすっかりいやらしい場所になっていた。
ぷくりと膨らみ、鮮やかに色づいて。
リクの身体が細く華奢で性差を感じさせないモノであらからこそ、その場所のいやらしさは際立ってしまう。
だからこそ、余計に恋人はそこに固執しているのだった。
3日前にひと月ぶりに訪れた恋人に、散々そこを嬲られた感覚はまだ消えていない。
何度もそこだけでイカされたのだ。
女の指はその乳首を摘まんだ。
リクの身体はピクンと震えた。
飲まされた薬の影響か。
それに元々リクの身体は、堪えることを教えられていないのだ。
「やらしい身体やね、性欲なんかないみたいな顔してるくせに」
女は冷たい目でリクを睨む。
でもその指は優しくそこを弄り始めた。
信じられないことに、その弄り方は。
恋人に似ていた。
その人差し指と親指で挟んで擦るやり方も、親指の先で乳首を潰すやり方も。
恋人と同じ。
「やぁっ・・・ああっ」
リクは声をあげてしまう。
身体をビクビクと震わせながら。
「もう乳首も勃ってるやん・・・ホンマやらしいんやね、でも、確かにあの子も夢中になるわ。私も堪らんなってるもの」
女は薄く笑った。
女は背が高い。
リクよりも。
恋人と並べば、今でもお似合いなはずだ。
女は手足や胸元までが露わになっているワンピースを脱ぎ捨てた。
下着も脱ぎ去る。
女の身体には、鮮やかなタトゥーが咲いていた。
不吉で、美しく、妖しい。
女はベッドのリクに跨がった。
リクは生まれて初めて目にする、生身の女の身体に怯えた。
リクは恋人の身体しか知らない。
女性を意識する前に、同性の恋人によって性的なことを覚えたリクは女性について考える間さえなかったのだ。
「リク・・・ホンマに可愛い・・・」
女は優しい声で言った。
リクは震えた。
声は違っても。
その言い方は恋人の言い方そのもので。
そして、リクの胸にキスして、その乳首を齧り、吸い、舐め始めた女のやり方も、恋人そのものだったから。
「ああっ・・・いやっ・・・離してぇ」
リクは泣き叫ぶ。
薬のせいか、恋人と同じやり方のせいか、リクが淫らなだけなのか、リクの身体は感じて悶えて欲しがり始める。
「声、出るやん」
女は低く笑った。
その笑い方も。
恋人に似ていた。
「こんなに濡らして、勃てて、嫌って何言うてるの?」
女はねっとりと指をリクの性器に絡ませた。
そう確かにリクのそこは零したながら、そそり立っていた。
女は指を動かす。
その動かし方も。
恋人と同じ。
「あ・・・触らないで・・・ああっ」
リクはすすり泣く。
その指に無意識に腰を揺らしてしまいながら、リクは混乱する。
なんで。
なんで、こうなったのだろう。
痩せてはいても、まだ豊かな女の胸の間にペンダントが揺れる。
指先ほどの、木彫りの魚のペンダント。
それはリクが恋人に贈ったものだった。
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