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第35話

 彼女から逃げた。  逃げずにはいられなかった。    生まれた時から近くにいて、ずっと側にいて愛し続けるとおもっていた人。  初めて感じた性欲も、彼女だった。  初めてのキスも。     姉だと知らなかった。  知らなかったのだ。  それは父親と彼女の母親の汚れた秘密。  リクが現れ、気持ちを向ける先がなかったなら、自分は壊れてしまったかもしれない。  彼女を愛していた。  どうしようもない程に。  ずっと側にいて、記憶の全てに彼女はいたのだ。  もし、リクが現れなければ?  二人はどうなっていたのか。  リクの代わりにあの樹の下に押し倒していたのは、血の繋がった姉の肉体だったかもしれない。  でも、そうしたら間違いなく。  自分達は壊れていた。  今以上に。  リクに救われた。  リクがいなければ。  リクが引きこもり、自分を遠ざけても、それでもリクを追いかければ良かった。  リクを見ていればよかった。  見つめつづけていれば良かった。  直接会えなくても。  リクの弟から消息を教えられ、  その居場所を知り、ネットで彼の作品を見るだけでも。    リクの存在全てが救いだった。  でも、とうとう話したくなって、リクの弟にソラに頼んで・・・。  そこから・・・。  奇跡が起こった。    リクが許してくれた。  そして。  リクは・・・こんな自分を理解してくれたのだ。  リクは自分をリクの物にしてくれた。  「オレのものだ」と。    生きていける。  そう思った。  リクで満たされた。  リクに自分をそそぎこんだ。  それを許された。  幸せだと思った。  でも。  でも。  わかっていた。  自分だけ幸せにならことがどれほど酷いことなのか。  リクを傷つけた時、リクと同じ位傷つけたのは誰だつたのか。  自分の指や唇に乱れるリクを見せつけて、苦しめたのは誰だったのか。  過去がある。  過去は確かにある。  過去が追いかけてくる。  したことから逃げられる人間などいないのだ。    

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