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第39話

 恋人の家から戻って三日後。  恋人へラインを打とうとしていたリクのスマホにソラからのラインが入ったことがバイブ音で告げられる。  塾に迎えに来て欲しいというラインだろう。   リクはそう思った。  リクは教習所に通い、免許をとり車も購入した。  家の中で、木彫りだけしているようにはならないようにリクも色々活動を始めたのだ。  苦手な社会活動にも参加している。    町内会の活動にも参加しているし、ソラの保護者としての活動にも参加していた。  ボランティアでソラの学校に木彫りを週一で教えにいってもいる。  ソラによると、「お兄ちゃん綺麗な人だねって女の子達が騒いでるよ」とのこと。    リクは頑張っている。  できる限り。  リクが頑張るのはソラのお兄ちゃんだからだ。  リクはソラを守りたい。  「おれのがお兄ちゃんよりしっかりしてるのに?」  ソラは笑うが、リクはソラのお兄ちゃんだ。  リクにはソラが大切なのだ。  だから、ソラのラインを見ようとして血の気が失せた。  そこにあったのは、ぐったりとベットの上に横たわるソラの姿だったから。  「弟って可愛いね」  そうつづけられたメッセージはおそらく、ソラのものではない。  「誰だ、ソラに何をした」  リクは震える指先で打つ。  「私の弟の代わりになってもらおうかと思って。弟って本当に可愛いと思わない?リク。リクも綺麗だったけどソラも綺麗ね、可愛がりたくなるね」  そのメッセージはソラのシャツのボタンがはずされ、少年らしい胸や腹か露わにされた写真と共に送られた。  「暑いのかな。ソラが自分で服を脱ぎだしたよ。可愛い。可愛いがりたいな」  メッセージは続く。  リクは焦った。  でも。  明らかに何かの影響でぐったりさせられているソラ。    しっかり者のソラは、知らない人間に近づいたりしないし、知らない人間に渡された者など口にしない。  知ってる人間。  そして、弟、  弟、と強調されること。  そして、リクやソラの名前を知っていること。  ソラは。  引きこもってしまったリクとは違いあの町で人々と交流し続けた。    リクが誰にも、何も言わなかったから、少年だった恋人とも交流し続けた。  そして、おそらく。  あの少女とも。  「  、あなたなのか」   リクはおびえながら少女の名前を打ち込んだ。    少女は。  記憶の向こうにいた少女が。  置きざりにした過去から、追ってきたのだ。  「そう。弟を返してくれる?それとも、あなたの弟を私にくれる?」  あの少女が当たり前のように尋ねてくる。    「あなたが私の弟を私から奪ったんだから。私があなたの弟を奪ってもいい。あなたがしてるみたいに、あなたの弟とセックスしてもいい。ソラは可愛いから、きっと楽しいと思う。毎日毎日ソラとセックスしたい」  あの少女が言う。  彼女が。  リクは怖ろしさに震えた。  彼女はソラをリクの恋人の、彼女の弟だったあの少年の代わりにしようとしているのだ。  「ソラに手を出すな」  リクはそう送った。    ソラには。  ソラには。  手を出すな。  「気持ち良くしてあげるだけ。ソラはきっと嫌がらない」  彼女の笑い声が聞こえる気がした。  そう、確かにソラは嫌がらない、かもしれない。  綺麗な女が現れて、気持ち良くしてくれたなら。  でも。   でも。  それは良くないことだ。  それをリクは一番知っていた。  リクは心が追いつくより先に快楽を知った。  恋心だと自覚するより先に幼い恋人の指でイカされることを覚えた。  乳首を恋人の舌や歯や唇で感じることを覚えた。  少女に怯える恋人が逃げるためにリクの身体に溺れたから。  心より先に快楽を貪りあった。    それは。  それは。    とても悲しいことだった。  おそらく。  恋人だった少年と、あの少女が、血の繋がった姉弟でなかったなら、少年はリクに興味などもたなかった。  少年と少女は順調に恋を育てていっただろう。  抑えきれない欲望をどこかへぶつける必要などなく。  いつかのために、我慢し、先に心を沿わせていっただろう。  相手を思っていたからこそ。    そう、少し位綺麗ではあっても、壊れるほど傷ついていたリクに少年は惹かれはしなかっただろう。  二人、欲望に解け合ったりなんかしなかっただろう。   暗く割いた欲望。  そこから生まれた恋だった。  リクは恋人を愛している。  でも、  でも。  あんな始まり方でなかったなら、とは願うのだ。  壊れたからこそ、リクを求めてくれたのはわかっていても。  初めて会った日の太陽のような少年。  初めての友達。  あそこから、普通の恋が出来たら良かったのにと思うのだ。  肉体を貪りあうよりも、幼い心を互いに添わせていくような。  歪まなければ、恋人がリクを求めなかっただろうから、そんなことは有り得ないとしても。  だから。  だから、ソラには。  ソラだけには。  そんな欲望から始まるモノを知らないで欲しかった。  追いつかない心を置いて、欲望だけが先にあるモノは、心がないから虚しさや苦しみが後からやってくるから。    それでも。  リクは恋人を愛しているのだけれど。  「ソラには何もしないで。ソラは。ソラは。ソラには何の罪もない」  リクは悲鳴のような言葉を送る。  ソラ。  リクとは違って、自由に動けて、友達も沢山いて、沢山の可能性があるソラ。  リクはソラを愛していた。  自分には望めないもの全てが、ソラには与えられることを祈っていた。  「ソラは止めて。何でもするから。大事な大事な弟なんだ」  リクは懇願した。  しばらく、何も返ってこなかった。    「あなたが一人で誰にも知らせず、ここに来たなら、ソラの居場所を私の弟に教えて迎えに来させる」  彼女の言葉は時間がたってから来た。  住所と共に。  選択肢はなかった  「行く」  それだけ打ち込んだ。  「もしあなたが1人で、今から30分以内に来なければ、ソラは私の友人達が可愛がるから。大丈夫。酷いことなんかしない。薬でも何でもつかって気持ち良くしてあげるから。男も女も何でも有りの身体に友人達はしてくれるでしょうね。あなたみたいに、後ろじゃないとイケない身体にしてくれるんじゃないかな」  彼女の言葉は脅迫だった。  「ソラをくれないなら、あなたを頂戴、リク。私のモノになりなさい」  彼女の要求は一つだった。  リクはその住所に向かうしかなかった。  30分。  リクのいる場所から、車でギリギリの時間だ。  彼女は。  全てを把握しているのた。           

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