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第41話
彼女は送られた住所の建物の前で待っていた。
彼女は変わり果てていた。
どこにもあの風のような少女はいなかった。
そこにいたのは瘴気のような艶やかさを持つ、痩せて傷ついた女がいた。
でも。
美しかった。
恋人に似たその面影にリクは胸が痛んだ。
やはり二人はどこか似ていた。
そして、彼女だけが深く傷ついていた。
傷つききった眼差し。
それは恋人に似ていたから、つらくなった。
むき出しの細い腕はタトゥーとリストカットの跡が刻まれていた。
言葉なく連れていかれるままに部屋に入り、指されたベッドに腰掛け、突き出されたグラスに入った飲み物を飲んだ。
飲み物はジュースのような味がした。
拒否はできない。
ソラがいるのだから。
目で問う。
「ソラは?」と。
リクには発する声がない。
「・・・相変わらず話せないんやね。でもあの子となら話せるん?ソラと話してるみたいに」
彼女は唇を歪めて笑った。
恋人となら話せるのか、そう聞いている。
リクは首を振る。
リクが話せるのはソラだけ。
たった一人の弟、ソラだけ。
「そう・・・」
彼女の目の中の凶暴さが少し消えた気がした。
彼女はリクの目の前でソラの携帯を取り出し、操作した。
ラインを送り、それから通話する。
恋人はすぐに電話に出た。
「迎えに行ったり」
それだけ言うとビデオ通話に変えて、リクを写した。
「リクに何をする気や!!」
恋人が叫ぶ姿が見える。
リクは大丈夫だから、と手を振る。
恋人は怒っている。
彼女に。
リクに。
自分自身に。
でも。
こうするしかなかった。
ソラだけは守らないといけなかった。
それはわかって欲しかった。
「はよ、ソラを迎えに行ったり。私のオトモダチが悪い気起こしたらあかんからね」
彼女は恋人にそう言うとスマホの電源を切った。
その言葉にリクは真っ青になる。
恋人が行く前にソラに何かあったなら・・・。
彼女はそれを見て少し笑った。
それは、歪んでない笑いで、困ったような小さな微笑みで。
遠い昔のあの少女のモノだった。
「大丈夫や。言うただけ、ソラは安全や」
彼女の言葉に嘘はないように思えたけれど、安心など出来なかった。
彼女はため息をついて、ソラの携帯ではない、自分の携帯を部屋の壁に掛けてある上着から取り出した。
そして、どこかへかける。
「あたし。そこにおる子を写したって。そして、早よそこから消えた方がええね。怒り狂ったヤツが来てあんたらに乱暴するん確実やから。あの子は怖いから」
クスクスわらうと、画面を確認する。
そして画面をリクに見せた。
ソラがぼんやりこちらを見ていた。
ぼんやりとはしていても今は服はキチンと着せられ、意識はあるようだ。
リクは画面にむかって手を伸ばす。
「大丈夫?」
そう聞きたくて。
「お兄ちゃん・・・」
ソラがぼんやりつぶやく。
その声に安堵する、
リクはソラに向かって手を動かす。
その目を引こうと。
「大丈夫だよ」
そう言ったのはソラで、リクは安心して、涙を流す。
「早く、消えた方がええよ。弟は怒り狂ってるから」
彼女が電話の先のオトモダチ達に言う。
リクはとりあえず安心した。
ソラは無事。
ソラは。
彼女は部屋の隅にある小さなテーブルに自分の携帯とソラの携帯を置いた。
そして、リクを振り返る。
「これでいい?」
彼女の言葉にリクは頷く。
続けて彼女は言った。
「そろそろ効いてきたんじゃない?」
彼女は笑った。
その意味はわかった。
身体から奇妙な熱がこみ上げてきたからだ。
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