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第48話

 日常が戻ってきた。  何も変わらない。  恋人は優しく、ソラは元気だ。  恋人とソラと3人で暮らすようになった。  ソラと一つ屋根の下では恋人はリクをいつものように貪れなかったけれど、ソラが両親のところへ行く日や、ソラが学校に行く昼間などには好きなように貪られた。  それに。  ソラがいても、夜することは当たり前のようにある。  声をおさえたり、こらえたりしたことがなかったリクが、恋人のモノを受け入れながら、声を殺して耐えるのはこれはこれで良い、と恋人は喜んでいた。  これはこれでエロい、と。  リクは呆れている。  仲良く暮らしている。  恋人はソラも好きなのだ。  リクがソラを愛しているからこそ。  いずれ、ソラは大人になり出て行く。  でも、リクとソラには切ることのないつながりがある。  今でもリクはソラとだけ話す。  それを恋人は羨ましそうに見つめる。   恋人にもいた、特別な人を思い出しているのだと、リクは知っている。  彼女についてはもう、二人の間でも、ソラとも話さない。  ソラは彼女と会ってお茶をのんだところまでしか記憶はないが、リクにとって何か良くないことがあったのを薄々察しているのだ。  だから。  そのことを告げたのは、恋人の兄だった。  兄も彼女とリクと恋人に何かがあったことは、多分気づいていたと思う。  でも。  言わないわけにはいかなかった。  隣りの家の彼女の母親と、恋人の父親が彼女によって片腕を切り落とされたことを。  彼女は寝静まった実家と隣家に忍び込み、母親と、隣りの家の主人、自分の生物学的な父親の片腕を切り落としたのだ。  斧をもちこんで。  見事な切り口だったらしい。  彼女は切り落としたふたりの片腕を、近くの川になげこんで逃げた。  見事な手際で、彼女は逃げおおせた。  何故彼女がそんなことをしたのか、誰も言わなかった。  切り落とされた当人達も。  何か察していた兄も。  恋人も。  彼女は罰を与えたのだ。  嘘を作った彼らに。  皆に嘘をついている彼らに。  彼女が生きる地獄の原因になったかれらに、彼女は自分で罰を与えたのだ。  彼女の人生を損なったわりには、片腕だけで済ませたのは、多分彼女なりの優しさだったのだ。  彼女には誰もいない。  恋人にリクがいるようには。     だから、彼女は埋め合わせをさせた。  原因をつくり平然と生きているその二人に払わせたのだ。  自分の父親と母親に。  そして彼女はつかまることはなかった。  彼女は綺麗に消えた。  恋人もリクも。  彼女のことを考えることはやめた。  彼女は始末をつけて生きているから。  彼女はもう、リクや恋人も、両親の腕と同じように切り捨てたのだ。  彼女は逃げて。  全てから逃げ切って。  やっと人生を送れるのかもしれない。  そうであることをリクは祈った。          

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