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第2話

 先輩の名前は花下夏月(はなしたなつづき)。一見、女性のような名前で、花下の両親と10歳上の兄と教師以外で彼を「夏月」と呼んだヤツがいたら、死人が出るという。と言っても、水上は花下の後輩であることもあり、間違っても、「夏月」とは呼べないのだが。  あとは右だけ長めに伸ばした襟足を揶揄ったり、触ったりしなければ、基本的には花下は優しい部類に入る人間だった。 「最近、花下先輩とよく一緒にいるみたいだけど、カツアゲられてるとかじゃあねぇよな?」  などと、普段は調子の良い土中も珍しく水上を心配する。  花下は長身で、独特の髪形や雰囲気ながら顔立ちが整っていることもあり、学年が違う水上達の間でもかなり目立つ存在だ。おまけに、成績もなかなか優秀で、長期留学組でもあり、本来は学校に出ずに、単位交換などで早期に卒業学業を修めることもできる筈なのだ。 「花下先輩が……?」  花下に対して、水上はどちらかといえば、小柄の方で、顔立ちも愛嬌はあるものの地味な方だった。地味な下級生の水上が派手な上級生の花下にカツアゲされている、というのは傍目から見ると、しっくりくるのだろう。 「カツアゲはされてないよ」  と水上は言う。 「カツアゲは……ってことはパシられてるとか?」 「いや、そんなこともない、かな」  土中の心配に曖昧に答えると、水上は遠くを見た。  遠く。その先に水上が花下と初めて出会った旧寮が建っていた。

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