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第4話(R15)
「はぁー」
新寮から旧寮へ行くには新寮の立ち入り禁止の階段を登り、ドアを開ける。ドアには普通、鍵くらいはかかっているのだろうが、特に、そのドアの鍵はかかっていない。おそらく、老朽化ということもあり、施錠したくともできないのだろう。
もっとも、旧寮が使用されるのは今年度までで、鍵の新調なども考えられていないのだと土中の友達の友達が言っていた。
ともあれ、たまに巡回をしている寮長先生や先輩に見つからなければ、問題なく旧寮の談話室まで行って帰ってくることができた。
「こんなことなら変に談話室とか行かずにトイレでやるべきだったかも」
イヤフォンくらいなら……と水上は思ったが、水上は音楽を聞くのも好きだし、声優のラジオやゲーム実況を聞いたりもする。土中がいる2人部屋でイヤフォンがないのは厳しかった。
それに、いくら1000円程で買える量産品のイヤフォンでも寮長先生や先輩に見つかる可能性もある。そんな考えただけで恐ろしい可能性は握り潰したいというのが、水上の思いだった。
「やっぱ、ここだった」
机に潜り込んで、人影をやり過ごした時、スラックスのポケットに滑り込ませたスマートフォン。その時に押し込んだだけのイヤフォンはブツッと抜けて落ちたのだ。
「……」
水上はイヤフォンを拾い上げると、またどうしようもなく、ムラムラしてきたのだ。
「1日2回も、なんて……」
何度も言うが、あまり水上は性欲が強い方ではない。
なのに、この日は余程、そんな気分になってしまう日だったのだろう。
水上は一瞬、悩んだが、イヤフォンをスマートフォンに接続して、動画を物色する。動画を物色していたことと深夜の2時を過ぎていたというので、夕方にあれ程、警戒していた人の気配に気づくのが遅れた。
「あれ? 先約か?」
ややニヒルでシニカルに聞こえる声。
手にはファイルケースとスマートフォンを持った人物が立っていた。
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