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第5話(R15)

 対して、水上はどきりとして、身動きどころか唇さえ動かない。  167cmの水上に対して、180cmはある。  先生ではなく、先輩、だろうか。  ファイルケースを机へ置き、スマートフォンの灯りを頼りにランプの紐を探る。すると、部屋は先輩の顔がはっきりと見えるくらい明るくなった。 「あ……別に問い詰めようとかって訳じゃねぇんだけど、すぐ終わりそうか?」  先輩らしき男は長い睫毛を揺らし、水上をちらりと見ると、くしゃりと長い方の右側の襟足に触れる。  水上としてはイヤフォンを取りに行くという目的は既に果たしているし、勃ち上がったものは驚きで萎えてしまっていた。  だが、水上は先輩らしき男の問いに答えることも、その場から離れることもできない。  そして、そんな水上の様子は先輩らしき男にも理解できた。 「何か、悪かったなぁ。でも、こっちも仕事あんだよ」 「仕事?」  水上は思わず聞くが、本人が1番、驚いていた。  例えるなら、チーターと遭遇したコジカが食べられる直前に逃げもせず、抗いもせず、話しかけるみたいな感じだろうか。  すると、先輩らしき男はファイルケースから紙とペンを取り出して、机の上に広げる。 「まぁ、仕事ってゆうか、まだ小遣い稼ぎみたいなレベルだけど」  先輩らしき男はペンを動かしながら、水上に言葉を投げる。  さっさっと音をさせ、ペンは動き、紙面の上には蜘蛛と蜘蛛の巣をモチーフにした硬質なデザイン画が浮かび上がっていく。アニメや静物画のタッチというよりはアクセサリーか宝飾品の原案のような仕上がりだ。 「あーあ……」  先輩らしき男は水上を無視して、描き始めたものの、仕上げることをやめて、その紙をくしゃくしゃとまるめる。  水上は無残にまるめられた蜘蛛や先輩らしき男から目が離せなかった。 「か、かっこいい……」 「え?」  水上もだが、今度は先輩らしき男も水上以上に自ら、口にした言葉に驚く。  かっこいい、とはどういう類の言葉だったかとインターネットで検索するくらいに、動揺していた。 「かっこいい……って」

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