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第6話
先輩らしき男は既に完成していたデザイン画の何枚かを水上に突き出すように渡す。
デザイン画は蜘蛛以外にも蛇や薔薇、髑髏や翼、それに宝石を螺旋で囲んでいるもの等があり、あまりファッションに明るくない水上にもその完成度が高く、凄いものだということが分かる。
ただ、『Hanashita. N』と書かれた彼の名前はデザイン画とはまた違った意味で凄かった。
「はました、えぬ……さん?」
水上はたどたどしく、サインを読むと、先輩らしき男は
「花下さんだよ、俺は」
Mじゃなくて、Nな、と笑う。
ニヒルでシニカル。
だけど、冷え切るほど冷たい訳ではない。
小遣い稼ぎという割には妥協も許さず、一心にデザインに向き合っている。デザインは洗練されているのに、小文字の「M」と「N」の区別がつかない程、悪筆。
それが花下夏月という男だった。
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