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第11話

「よぉ、水上。先、来てたんだな」  深夜1時頃、昨晩と同じく、花下はファイルケースとスマートフォンを持って、旧寮の談話室に現れた。  それに対して、水上は昨晩とは違い、鞄を持っていた。 「こんばんは、花下さん。僕も今、来たところで」  花下を待っている間に、水上は勉強道具を広げて、勉強していた。 「あ、すみません。すぐに片づけますね」 「別に少し端に寄れば良いだろ……って、これって、『英語』?」  水上が片づけようとすると、花下は水上の英語のノートを手にとる。規則正しく、アルファベットが並ぶノート。  悪筆気味の花下とは違い、水上は読みやすい筆記体で英文が書かれていた。 「水上って字、意外と綺麗なんだな。古文と漢文も期待できそう」  花下が呟くと、水上はまたいたたまれない気持ちになる。 「花下さんこそ、あのサインとか、天才っぽいじゃないですか……」  と言い返すのが、やっとで、花下も一瞬だけ言葉に詰まるが、言い返す。 「字が下手なの、笑われたり、キレられたりことはあっても天才っぽいなんて」  やっぱり変わり者だな、水上は、と花下は笑う。  昼間、校内で見かける花下は良い意味でも、悪い意味でもクールで隙のない人間に見え、まるで違う人間に水上は見える。 「もっとそういうの出したら良いのに。花下さん、良い人なのに結構、誤解されること、多くないですか?」  と、水上は言うと、花下は否定する。 「あのな、俺が良い人な訳ないだろ。普通にウマの合わない人間なんてザラにいるし、気分がノラない日もある。いつもニコニコなんてできねぇのさ」 「そうなんですか……まぁ、確かに無理に笑わなくても、花下さんは素敵ですけど」 水上は花下ができないと言った笑顔で言うと、花下も笑う。 「ふっ、その素敵な花下さんを知っているのは水上だけで良いんだよ」  花下は色んな意味で、水上をどきどきさせる人間だ。  どきどきさせられ、触れたくてたまらない男(ひと)。

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