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第27話

 世の中もお盆休みが終わり、碧葉学園の寮が再開になる。 「あ、古文と漢文のノート、いつまでも借りてたら悪りぃな」  ホテルから寮へ帰る道中、花下が思い出したように旧寮の自室から水上のノートを持ってくる。  だが、水上は受け取らなかった。 「ノートは学期別でとっていこうと思いますし、花下さんに渡す時にコピー、とったんで。あ、もし、要らなかったら、返してください。処分すると思いますけど」  今、花下の記憶の残るものなんて返してもらったら、水上はそれこそ花下が忘れなくなってしまう。  花下に縋るように生きてしまう。  水上は努めて笑顔で言うと、花下は水上に言った。 「分かった。処分するくらいなら、もらっとくよ。卒業しないといけないしな」  花下ならおそらく、自分のノートがなくても、卒業できるだろうと水上は思う。思うものの、「ええ」とだけ言う。 「卒業したら……いや、またな。水上」  花下は何かを言いかけて、旧寮の方へと戻っていく。水上はその花下の背中が見えなくなると、空を見上げる。  空には早くも夏の月が浮かんでいて、夏月の名を持つ花下を思わせた。

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