28 / 35
第28話
元々、旧寮と新寮で往き来はできても、建物が違うこともあり、そのノートの行き場をやりとりした日から水上は花下と会うことはなかった。
そして、世の中は夏から秋、秋から冬、冬から春へ移り変わり、花下は碧葉学園でのカリキュラムを無事に終えて、卒業した。
そして、そして、世の中は春から夏、夏から秋、秋から冬と順に移り変わり、水上は花下と出会った時の花下と同じ年齢になっていた。
「水上〜」
水上を『ミズカミ』ではなく、『ミナカミ』と呼ぶ数少ない友人にして、同室の土中が水上を呼ぶ。
「あ、土中。どうしたの?」
土中は1年生の頃から背があまりなく、高校の2年と3年でぐんと伸びると息巻いていたのだが、結局、伸びたのは3cm程だった。
「うわぁ、水上、また伸びたんじゃね?」
一方で、水上は高校の2年間で、11cm伸びて、178cmになっていた。いつか、花下とラーメンを食べて行った時、花下に言われたことは現実になったのだ。
「うん。まぁ、でも、あと3cm、足りなかったかな?」
花下の身長を正確には知らないが、180cmはあるように見えた。
「うわぁ、嫌味や。のっぽや。ハゲや。古文も漢文もいつの間か、俺より良い点、とるようになって」
「古文とかだけじゃなくて、ほぼ全教科だろって、ハゲてないし」
水上は冗談まじりに土中に言うと、今年の夏に取り壊しが決定した旧寮の方を見る。
「あ、旧寮の取り壊しだろ。『基地部』で使えそうなもの、あると良いけどなぁ」
ちなみに、土中が言う『基地部』というのは『真夏の日の秘密基地部』のことだ。当初、取り壊しは秋以降になるらしいとデマが流れて、そこを活動拠点にしようと土中は考えていたらしいのだが、教師陣にあっさりとバレて一学期が終了したら、壊される運びになったらしい。
「まぁ、掃除要員に駆り出された時は世界の終わりかと思ったけど、備品もやるって言われているから物資調達だと考えればな」
「あと、取り壊し式典の雑用係もだろ」
取り壊し式典とは所謂、歴代の寮生が来る式典になっている。上は現在70以上、下は今年で19か20歳。
ちょうど、花下が在籍した学年までになっていた。
「夕方からとは言え、普通に平日だし、大学生か爺さんしか来なさそうだけどな。俺と掃除係、変わる?」
「式典、100人は来て、車椅子対応とか会場誘導とかあるみたいだけど」
水上は雑用係の中でも、受付係の補佐メインで、出席者の人数は先生から聞いていた。
「心の底から掃除係、ヤリマス」
綺麗なお姉さんが来るなら大歓迎だが、碧葉学園高等部は創設以来の男子校だ。
仮に、女性らしい人物がやって来ても、おネェしか来ないと踏んだ土中は三角巾とマスクをつけ、備品偵察と言う名の掃除作業へ行ってしまった。
ともだちにシェアしよう!