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第29話
「65期生の西村(にしむら)です」
「51期生の東江(あがりえ)です」
大手企業の若き部長や急成長を遂げるアプリ会社の室長などが来た以外は土中が睨んだ通り、現大学生もしくは、退職して、一線を退いた紳士が参加するアットホームな取り壊し会となり、水上とともに受付を担当していた先生も碧葉学園の49期生兼旧寮生として、それに加わっていく。
新寮に身を置き、旧寮生ではない水上ではあるが、ある意味、旧寮の最後を胸が潰れそうな思いで見ていた。
「帰るか……」
今日で1学期が終わり、取り壊し会もあることから水上は寮ではなく、『真夏の日の秘密基地部』の3年メンバーと土中の家にお邪魔する予定だった。
土中に『今から行く』とメッセージを送ろうと、感傷に浸ったまま、スマートフォンを取り出した。
「すみません」
ふいに夏の夕暮れにしては熱い風が吹き、声が聞こえる。水上は感傷に浸っていたのをさっと意識を戻すと、夕方なのに黒いハットを被った青年が立っていた。
黒いハット。シャツやベルトはあの日と違っているが、シンプルなリングのぶら下がるネックレス。蜘蛛の巣と蓮の花があしらわれた細いパンツ。
奇抜で合わせるのは難しい筈なのに、それが彼らしくてかっこよかった。
「碧葉学園81期生の花下です、なんてな」
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