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第30話

「は、花下、さん……」  名簿には81期生も1人か2人はいたが、花下夏月の名前もなかった。  ただ、水上な目の前にいるのは紛れもなく花下夏月だった。 「受付が終わるの、待ってたんだ。お陰で汗だくだ」  長い睫毛を片目だけ器用に閉じると、花下は水上の肩を叩く。  強すぎない手の感じ。あの2年前の夏の日と同じだった。 「土中ってヤツには悪いことしたんじゃないか。あと、『真夏の日の秘密結社部』だっけ……そいつらにも」 「『真夏の日の秘密基地部』です。花下さん」  若干中二病っぽい響きだったということで覚えていた花下は「惜しい」と言うが、水上としては何が何だか分からなかった。  何が何だか分からないが、とりあえず、夕方でも30度以上と暑いので、花下が泊まっているホテルへ向かう。 「ここだ」  2年前に水上が花下と泊まったホテルと同じホテルではあるが、階数が違うフロアまで行き、花下がベッドの数と大きさが違う。 「一応、カップル限定部屋らしいんだけど、今日はでかいベッドが良いって支配人に言ったら、ここでってことになってな」  キングサイズのベッドが1つあり、丁度品も前に入ったことがある部屋と比べると、大きなテレビや冷蔵庫、ソファなんかがある。さらに、ちょっとしたものなら温められたり、解凍もできるレンジやコーヒーサーバーなんかもあり、恋人達の夜も充実するようにお洒落なボトルに入ったローションまであった。 「水上、元気そうだなぁ。それに、背も伸びた。あの時、思った通りだった」  いつも肩に触れていた花下の手が水上の頭に触れる。 「花下さん……」  それ以上、花下へなんて声をかけたら良い。  というより、何故、花下は目の前に現れたのだろう、と水上は思う。 「なぁ、水上。このホテルで俺に言ったこと、覚えてる?」 「言った……こと?」 「『花下さん。僕のこと、嫌いですか?』って言ってたんだよ。水上」

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