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第34話

「あ、あー」  花下は目をゆっくり開け、自らの声を出すと、それが枯れているのに気づく。 「み、水上?」  ベッドには水上の姿はなく、花下はベッドサイドに置いたスマートフォンで時間を見る。  よく眠っていたとは思ったが、碧葉学園を出たのは18時頃。水上に抱かれていたのは20時頃。  そして、今が22時を少し過ぎたばかりだった。 「(あ、体が綺麗になってる……水上がやってくれたのか?)」  声が枯れるまで、水上の名前を呼び、果ててしまっていた。  花下は憤死しそうになりながら、首筋のほくろ星群に触れる。右側だけ長くなるように襟足を伸ばしたのは無闇に人が触れて、変な声を上げないようにする為だった。 『貴方の声が聞きたいんです』  初めて花下が水上と出会った時、水上はもっと花下と話したいと言っていた。そんなことを唐突に思い出すと、花下はベッドから立ち上がった。 「あ、花下さんっ!」  少し眠ったとは言え、水上を受け入れた身体のまま、立ち上がった拍子に花下は蹌踉めきそうになる。それを、水上は見つけると、賺さず、花下を支える。  身長だけでなく、逞しさもプラスされた水上に花下は「ありがとな」と言う。 「声、少し枯れてますね」  水上は花下の首元に触れると、「声を聞きたいなんて言ったからですよね」とすまなそうに言う。  それに対して、花下は「一時的なものだろうし、大丈夫だ」と言う。 「本当に花下さんには敵わないな……」  水上は照れたように、呟くと、夕食を買ってきたです、と、コンビニの冷やし中華を並べて、お茶や水なんかのペットボトルとグラスを並べる。 「食べられそうなら餃子とかアイスとかも買ってきたんで、食べましょう」  まるで、2年前にホテルに来た時の最初の日のようだと花下は笑うと、水上も笑う。 「水上」 「なんですか?」 「これ、やる」  水上と花下はあらかた食べ終えて、アイスと温かいほうじ茶を用意しようとキッチンスペースに立っていた水上は不意に花下へ呼ばれる。  水上は2年前と同じように、餃子でもくれるのかと思ったが、花下に渡されたものは花下がネックレスにしていた指輪だった。 「これ……」 「サイズとか好みが分からなかったから俺の最初に作ったヤツで悪りぃけど」  花下は水上に左手を出せと言うと、水上は素直に従う。  花下と身長は変わらなくなったが、花下は親指でもかなり細い。水上の親指にはどう見ても、合いそうになかった。 「あ、まさか、この指にぴったりとは、な」  花下は水上の指に何とか、指輪をはめた。 「誓いのキスをしますか?」  と、水上が聞くと、花下は「ああ……」と返す。  水上の左手の薬指には花下の指輪が光っていた。 『生や死が二人を分かつこともあるかも知れないけど、愛し続けられるように』

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