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第5話

引越し2日目。昨日やりそびれた荷解きを口実に自室に閉じこもって早2時間。時計は11時を指している。本来ならばリビングで家族で過ごすべき時間帯だがあいにく両親は2人仲良く買い物に出掛けたので自然と海と2人きりとなる。さすがに家族の前ではないとは思うが、2人きりとなると昨日のように…何されるか分からない。明日から仕事もあるし荷解きは今日中にしなくてはいけないと思ってはいたのでちょうどいい。 元々家具が多い訳では無い部屋なので配置は完了した。あとはダンボールの中に入った衣類や本を…と思いつつ積まれたダンボールを床に下ろそうとしたその時、突如蜘蛛がダンボールの隙間から這い出てきた。その姿に、 「…ひっ!!ぎゃぁぁぁぁ!!!」 思わず悲鳴があがる。色々なものにぶつかりつつ、逃げなくては…と思ったその時、 「どうした?!!!」 扉がバンッと開かれ海が姿を現す。蜘蛛さんへの恐怖で頭が混乱している僕は無意識に目の前にいる海に飛びついた。 「深月?」 「あそ…あそこ…!!くくっ!く…!くもっっ!!!」 困惑している海にダンボールの方を指さし一生懸命蜘蛛のことを伝える。自分でも何言ってるか分からない。 「ちょっと落ち着け。え、何?蜘蛛…?…あそこに?」 取り乱す僕をなだめつつ、海はダンボールの奥にいらっしゃる蜘蛛さんを窓の外にサッと逃がしてくれた。 「ど…どうも…」 と、お礼を言いつつ先程自分がやらかした事を改めて考える。僕、海に抱きつかなかったか?!やばい、やばい。かなりやばい。 「あの、その…蜘蛛だけはほんと無理で…。不意打ちだったし…取り乱しちゃって…ごめん…ほんと…色々と…」 言い訳がましくボソボソと話す僕に海は一瞬目を丸くしたが、 「いや。」 その一言だけ返して背中を向けた。これでこの蜘蛛事件は解決、はい解散!となるはずが、 「おい。いつまでそこにいる気だよ!」 あれから30分ほど経って荷解きを再開したのだが海は自室に戻らず壁にもたれて僕の様子を見つめてやがる。視線が痛くてやりずらい。できることなら早く帰っていただけると嬉しいのだが…と思うが、帰る気配もなく 「俺のことは気にせず、ほれほれ頑張れ〜」 手をヒラヒラとさせ煽ってくる。そんな意味のわからない態度にムッとしつつ本の入ったダンボールを抱える。足元にエアコンの風に乗って何かの書類が落ちてきたのが気づかず思っきり踏んでしまう。そして案の定見事にそれに滑ってダンボールごと後ろに倒れる。やばい。ダンボールは開いているから中の本が全部僕の方に落ちてくる。と衝撃に備え無意識に目を瞑るがいつになっても床に着地する衝撃しか来ず、恐る恐る目を開ける。 「イッテテ…」 気づけば海が僕に覆いかぶさっていた。

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