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7 獣の噛み痕

そのころソフィアリは最悪の目覚めを経験していた。 布すら引かれていない硬い木の台のようなところに転がされ、痛みを覚えた足首は何かがきつく巻かれている。多分枷のような物がつけられている。どこに繋がれているのかはわからないが足を引くとジャラッとした音が伝わり、重たい鎖であると絶望する。 屋敷を出たあたりから時折夢現を彷徨っていたが、今はむしろ痛みのせいで意識が保てていた。 熱っぽい身体で呼吸は荒くなり、息苦しくて首元に手をやるとオメガの証のように首輪がつけられていた。 その事実に息苦しさがさらに増し、取ろうともがくが、どういう構造になっているのかわからず気が焦るばかりではずせない。 荒く息しながら暗闇に目が慣れるのを待ったが、ここが何処かを判じようとするのは困難だった。 ごくごく小さな天窓が奥の方にあるのが見える。しかしソフィアリのいるこちら側は薄暗いままだ。 少しかび臭い匂いとじめっとした湿気が漂っているのでここは地下室だろうか…… 身体が鉛のように重く感じ、動きが緩慢になってしまう。身を起こそうと手をついたら誤って台から転げ落ちた。 思わず呻いたが痛みを我慢し床を這うようにして上半身だけ進む。しかし、片足だけが枷と鎖によって抜けずにぴんっと足を伸ばした状態になってしまった。 どうしてこんなことになったのか…… あの青年に売られでもしたのか。 馬車で眠ってしまい抱きあげられた瞬間目覚めたが、布のようなものを被せられてすぐさま身動きを封じられてしまったのだ。 その後息苦しくて意識を失い、こんな暗い場所に監禁されている。 何が目的なのか…… ソフィアリがここにいることは家族とほんの一部以外には内密にされているはずだ。可能性は低いが父の政敵に狙われたとも限らない。こんな田舎まで来るとも思えないが……。 素性がばれていないならば、それは自分がオメガだからかもしれない。首輪をはめられているあたりからして、オメガとばれていそうだ。 このところフェロモンが多く漏れているとアスターからも指摘されていたところだ…… どちらにせよ厄介なことになった。身体が本調子でなくすぐに思考が散漫になり、依然力が入らない…… 正面からギイっという音がしたあと、扉が開いた。 扉の前に男が立ち、背後から漏れる明かりを得て素早く周りを見渡すと、ここが倉庫のような場所だとわかる。 「気がついたみたいだな」 その顔を見て、覚えがあり、そっちか…… とソフィアリは瞬時に理解した。 この街に来た初日にソフィアリに目をつけて酒場で絡んできた男だったからだ。 「たまに街でお前とあの熊みたいな男を見かけたって話は聞いてたが、あんないい匂い振りまきながら寝こけててなあ。追いかけていった甲斐があったもんだ」 この中年男の下品びた笑い顔を見たくなくて、目をそらしたくなったが、その後ろにドアが開いている以上、目を離さずに隙を見てこいつをのして外に出たいところだ。 男は中に入ってきてソフィアリに近づき屈むと、足枷のせいで引っ掛かり長く伸ばした白い足を尻まで撫で上げた。 あまりの気持ち悪さに鳥肌がたつ。 俯く美貌を無理やり明かりの方に向けさせ、にやにやと嗤う。 「あの時よりもずっと綺麗になったなあ。おれの目に狂いはなかった。あの男の番になってもいないし…… この匂い、もうすぐ発情期かあ? いい拾い物したもんだ。すぐにオメガの番が何人も欲しいような金持ちアルファに売りつけてやるよ」 腕を乱暴に引っ張りあげられ突き落とすように無造作に置かれた寝台にあげられた。 呻いて横向きに丸まった身体の上に、男は馬乗りになって乗り上げる。苦しさで息することすら辛い。しかし切れ切れになんとか言い募る。 「お前…… こないだみたいな目に合いたくないなら、やめておけ」 精一杯の虚勢に逆に興奮したように男はソフィアリの青い薄手の衣に手をかけ、腰元までボタンを飛ばしながら引きちぎる。 意地でも悲鳴を上げるものかと唇を噛み、ソフィアリは男を冴えざえとした青い瞳で睨みつけた。 顕にされた胸元に男が生唾を飲み込む。 「真っ白だ…… 綺麗だな、おいっ」 独り言を呟きながら胸元に手を寄せるのを嫌がり、繋がれていない方の足で男の頭を死角から蹴り上げる。 男が倒れた間に気力を振るい起こして起き上がり、寝台から再び転がり降りてドアに向かう。 しかしそれをさせじと男がすぐさま鎖を引き、ソフィアリは転倒して両肘から上をびたんっと床に打ち付けてしまった。 「誰か! 助けて!」 声を出すが薄暗い廊下に人影はない。 しかし廊下の先にさらに扉のようなものが見えて声を張り上げた。 「誰か! ラグ!」 男はソフィアリの足を引き戻すと青い服の裾を背中まで乱暴にまくり上げた。  尻たぶを撫で上げられながら下着をむりやり引き下げられ、パンッと音を立てて尻を打たれる。 屈辱的な行為に歯を噛みしめるが、それはまだ序の口だった。 「たまんねぇ匂いだな。ベータの俺でも滾りきるわ。もう、俺のモンにしちまおうかな……」 「あぁ! やめろっ!!」 尻を舐めあげられまた何度も打たれ、ソフィアリが前へ崩れ落ちると首輪を無理やり引っ張られ首をぎりぎりと締め上げられる。 朦朧とするなか、首輪をガリガリと爪が剥がれかけるほど掻きむしるが、男は足枷に繋がれたソフィアリに後ろから再度のしかかり、硬く立ち上がる股間をソフィアリの腰にいやらしく擦り付ける。 「アルファにくれてやるまえに一回ぐらい味見してもいいよな? 番相手に、発情期でなきゃ孕みもしないんだろ?」 首輪を荒々しく離し、床に頭を打ち付け、ぐったりしたソフィアリの鎖に繋がれていない方の細い足首を掴み、下履きをくつろげながら足を左肩に担ぎあげる。 何度も太ももを撫で回されながら持ち上げられ、頭と肩のあたりだけ床につくほどになり、腕はずるずると力なく投げ出された。痛みで溢れた涙で視界が曇る。 「ラグ……」 このままここで犯され殺されるかもしれないと思ったら、真っ先に浮かんだ顔は家族でもセラフィンでもなく、やはりラグの顔だった。 会いたい…… ラグ。 ずっと愛してた。 ソフィアリが固く目を瞑った瞬間、何か鈍く重い物が落ちてくる音がした。そしてややあって痛みを訴えるような恐ろしい男の呻き声が地面から響く。 ソフィアリを抑えつけた男が動きを止めた。 「な、なんだ? 」 ずるずると何かが引きずられる様な音がする。 廊下の向こうから聞こえる重低音の足音はとても人のものとは思えない。 直後。 半開きの扉がつんざくような音を立てて割り開かれ、扉の破片とともにムッとする血の匂いとともに意識をなくした大男の巨体が壊れた扉の下に伏して落ちた。 「ばっ化け物!!」 男に足を手離され、床に力なく伏したソフィアリは今度は髪を鷲掴みにされた。 そして後ろに引きずられながら盾にされる。 為すすべも無くぐったりとしたソフィアリの視界に、廊下の薄暗い明かりを背にした光る2つの目が入る。 ゾクゾクゾクっと背筋を震えが走り抜ける。 「ら、ラグ……」 次の瞬間、ソフィアリを掴んでいたはずの腕が掴みあげられ、ねじきられるようにして音を立てて、後ろへ折れ曲がった。 男が断末魔の悲鳴を上げてのたうち回るのを、追い打ちをかけるように踏みつける。 そのたびに何かが折れ潰される音がした。 まるでアリを潰すかのような圧倒的な力の差に、男はすぐに悲鳴すら漏らさなくなり、ソフィアリは恐ろしさに全身の震えが止まらなくなった。 なんとか言葉を口にできたのは、ラグに無用な殺生をさせたくない一心だった。 「だめっ 殺さないで」 まるで血に飢えた獣のようだ。 フェル族の本性を晒したラグは金色に光る目でソフィアリを見下ろす。 「ラグ、ラグ!」 ソフィアリからは暗すぎてラグの姿ははっきり見えないが、ラグの獣の目にはソフィアリの痛ましい姿がよく見えている。 隣に倒れた虫の息の男を思い切り奥に蹴りころがし、血のべっとりとついた手でソフィアリの足首を掴む。 「ひぃっ」 ヌルっとした感触に恐れをなし、身をこわばらせるとジャラジャラと鎖がすごい勢いで引っ張られていった。 直後、ゴトッと大きな石が転がり落ちるような音がした。 ラクが鎖が固定してあった壁に打ち付けられた大きな杭を、壁ごと腕の力だけで引き抜いたのだった。 足を広げられたまま、腰を抜かしたような姿勢でいたソフィアリを右足の立て膝に横抱きに大切に抱き上げる。頭の後ろに大きな手を回し、首についていた分厚い革製の首輪に顔を寄せ、それさえも牙で引きちぎった。 ちりっと僅かに頸を引っ掻いて、鋭い牙が痛みを残す。 恐ろしい…… 恐ろしい人を愛してしまった。 しかしガタガタと震えながらも、あの優しいラグが押さえつけていた力を解放してまでソフィアリを助けに来てくれたのだと、両目から感謝と申し訳なさで涙が流れ伝った。 牙がむきだした唇のまま、薄暗がりの中、擦れ傷ついたソフィアリの首筋から滲む血を、ぺろぺろと舐められる。 たまに喉仏に牙があたり、このまま喰らいつかれたら命を落とすだろうと思う。 まるで狼に食われる鹿のような心地だ。 喉笛を噛みちぎられる時、恍惚とした表情を浮かべて死にゆく野生の鹿。 このままラグに殺されてもいいと感じ、身体の力をゆっくりと抜いて、ただ一言だけどうしても伝えたかった言葉をつげた。 「ラグになら、殺されてもいいよ…… 愛してるから」 直後、ソフィアリのフェロモンが紐解かれるようにすべて開放された。 同族のフェロモン以外はたいして効かない。そう言い伝えられ里での婚姻が薦められていたはずが、惚れきった相手のフェロモンはそんなセオリーをも飛び越える、強烈で目も眩むような刺激となった。 ラクの瞳は徐々にギラギラとした光を失い、それと同時にラグからも放たれたムスクと、マグノリアが混ざったような官能的かつ妖艶さを秘めた香りが、真っ暗闇の中ソフィアリを優しく包み込んだ。 あまりの香りの心地良さに痛みすら吹き飛び、身体が甘い歓びに震えた。まるで麻薬的な快感だ。 しかし再び、ラグの荒々しい息づかいがすぐそばで聞こえてきた。 ソフィアリのフェロモンに煽られ、血の匂いで沸き立っていた野生が再び首を擡げる。 ソフィアリはラグの腕の中で、自らズキズキと痛む足をゆっくりと折り曲げるように開き、左手で太ももを固定し、右手でラグにだけ見せつけるように蜜壺に指を這わせた。そしてグチャグチャとわざと水音をたて、中をかき混ぜる。 それだけでもどうにかなりそうな心地良さに淫らに喘ぎ声を立てて、ラグをさらなる興奮へ誘い誑かす。 指先を愛液がとろとろと伝わり落ち、跪き抱えていたラグの硬い太ももまで濡らした。 「ラグ、抱いて。俺を、番にして」 お願い…… と凄絶な色気を含んでかすれる懇願は、ラグの唸り声にかき消された。 ラグはソフィアリの太ももを大きな手で掴み持ち上げ、膝を更に高く立てて臍の下辺りに頭を固定した。 熱い息が股間にかかりソフィアリは小さく身じろぎしたが、すぐさま頭を伏せたラグが後孔に大きな分厚い舌をみちみちとねじ込んできた。 ぴちゃぴちゃと淫らな音を立てて穴を舐め回す。ソフィアリは刺激を逃がそうと、無意識に腰を跳ね上げる。 「いやぁあっ、あんっあああ!」 悲鳴なのか嬌声なのかわからない声が喉をひりつかせるほど上がり続ける。 辛いほどの快楽は痛みをも凌ぐ責め苦だ。 しかし逃げようにも、子どものように軽々と宙に浮くほど持ち上げられ、片手だけで押さえつけているとは思えないほどラグの手のひらは固く重い。先程の鎖よりよほど強くソフィアリの自由を奪った。 とろとろの隘路を犯すのは太い指を差し込む攻めに取って代わられ、続いて竿を食いちぎられるのではないかと思うほど喉の奥まで飲み込まれた。 強く強く吸われ、気をやりかけると声がしないと気が付かれて、今度は小さく飛び出たままの牙に太ももを齧られ痛みでたたき起こされる。 荒い息づかい、立ち込める血の匂い、足を伝う孔から溢れる蜜。 ソフィアリは何もかも感じすぎて頭の中がグチャグチャにかき回されて気が触れそうだ。 背中から回っていた右手がいじっていた乳首は器用に抓りあげられ、左の胸にも強く吸いつかれると今度は舌先でぐりぐりと乳頭にねじ込まれた。感じすぎてぐったりしたところに、はては牙を立て乳首に横から風穴を開けられる。 「きゃあああっ!!」 ソフィアリは甲高い悲鳴を上げながらその刺激で白い蜜を撒き散らしながら果ててしまった。 まるで獣の神と交わらされる供物にでもされた心地だ。 啜り泣く中、向かい合わせに抱え直され、一度冷たい床に背中から寝かされると、胸につくほど足を折り曲げさせられた。 禍々しいほど巨大な陽物が蜜にひたり解け、赤く充血した孔にあてがわれる。 もしも明るい場所でそれが見えていたら、ソフィアリは絶対に無理だと駄々をこねて逃げを打ったであろう。 体躯にあった怒張が腹につくほど青臭い匂いを放ちながら禍々しい反り返っている。 いよいよ散らされる予感にソフィアリはぎゅっと身体を強張らせ、唇を噛み締めた。 その唇に、しっかりとした弾力のあるラグのそれが押し当てられ、ソフィアリが驚いて綻ばせると、再び唇で触れフィアリの唇をめくるように動かしながら口の動きだけが言葉を紡いだ。 『愛している』 その言葉の意味を理解する前に、恐ろしいほどの衝撃をもって初めてを奪われる。 強烈な刺激は心地よさよりも重みを腹一杯に伝えてきた。 本当は半ばも入っていないが、ツラすぎてソフィアリは呼吸を止めて喉だけではくはくと息をする。 ずりずりと引き抜かれ、ギリギリまで抜かれたあと、腹側の僅かなでっぱりを押し引っ掛けるようにしてより奥まで再び貫かれた。 「きゃあああっっ、だめぇ!」 そこからは殺されると思うほどの猛攻をうけた。 濡れぬかるんだ中への中挿は勢いを増し続け、徐々に先へ先へと侵略を果たす。 ソフィアリは周りが見えないはずの暗闇の中でも星が目の前にちかちかと散る程の快感に喘がされ続けられる。喘ぎすぎて血をはくのではないかと思うほど、ひりひりと喉が痛み声はかすれていった。 辛い、怖いと噎びなきながらついに気をやり、力をなくした身体を、ラグは立てたひざの上に背もたれをさせるように再び抱きあげる。そして、今度は角度を変えぐりぐりとねじ込み直すと、恐ろしいことに下からさらにしつこく突き上げた。 意識が戻っても同じように串刺しにされていて腹の圧迫感、どこもかしこも痛みを訴え、しかし身体中、神経を直接撫でられたような快感の際を感じて、でも苦しくて。逃げ打つ腰を肩を押さえつけられてさらに衝かれる。 限界を超える快楽に心臓が痛むほど荒い呼吸を繰り返す。 「死んじゃうぅ! 死ぬ!」 しかしもはや自分で制御が効かなきほどの興奮状態のラグは、抱き上げてもまだ下にあるソフィアリの瞳を再び光る目でギラギラと見つめた。そして舌を絡めとり中を余すところなく犯すと、口内に溢れるほど唾液を注ぎこんだ。 むせ、咳き込んでも許さず、いたぶる様に嗤うと、突き上げを緩めつつねっとりとかきまわす動きにかえながら、穴の開いた乳首を舐め上げぐりぐりと刺激する。 そして今度は健気にぴんと立ち上がりながらも、じんじんと痛む乳首を牙が刺さるギリギリのところで喰み、噛みちぎろうとする仕草をわざと見せた。その恐怖からソフィアリは虚脱し、気絶してしまう。 まるで獣とのまぐわいだ。 獲物を弄んでは痛めつけ、身を震わして溢す涙さえ甘露のように啜る。まだまだ萎えぬ陰茎で大きくかき回しながら、さらなる快感を求めて尻たぶがあたり音がなるほど腰を振る。 こんなにも暴力的な衝動を相手に対してぶつけたことなど妻にすらなかった。 狂おしいほどの熱情を呼び覚ます、気高く美しいオメガに夢中になり理性すら失う。 本来の目的を忘れかけた頃、ソフィアリが身じろぎし、ラグの胸をついた両手が無意識にすりっと力なく撫ぜた。いつも共に床につくときに甘えてみせていた仕草だと気がつきラグは、ようやく我に返る。 ラグは動きを止め、自身の屹立とそれを食む温い穴との脈動を感じながら、 黒髪をかき分け、唇と舌であたりをつけると、ついにその鋭い牙をソフィアリの項に突き刺した。 びくびくと震えながら強く強く竿のすべてをソフィアリに締め付けられ、飛び出した精子が最奥を汚し隙間から溢れ続けるのが長い時間をかけ止まるまで。 小さく震えていきつづけ、喘ぎ、気をやった番の身体を腹の上に抱きしめたまま横たわって、ラグは静かに目を閉じた。

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