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第1話
今日もまた太陽が昇る。朝日が差して、国中の妖狐達が生命活動を始めて。
周りが皆満面の笑みを浮かべて、さあ起きろ働けと光を僕に刺してくる。
――むせ返る血の匂いで満ちた処刑場に朝一番に向かい、ただただ罪人を殺す。
それが与えられた仕事。
首を、刀で切るんだ。いつも腰に刀を差しているのはそれが理由。罪人の妖狐は、人間の姿に化けた状態で処刑される。大勢の観衆と、天皇の前で、まるで見せ物のように。そして、ギラギラ光る刀を見て、罪人達は必ず僕に許しを乞う。最後の叫びを、その喉が切れる直前まで。
...首を切る時は、決して躊躇してはいけない。こう、思いっきり刃を傾けて、一気に切るんだ。血がさ、こんなに入ってたのかって程吹き出してさ。僕の顔にもかかってさ。
今更、吐いたり罪悪感を覚えたりなんてことはしない。これをしないと、ここでは生きていけないのだから。悲しい生き方?何言ってるんだか。これがもはや日課なんだ。悲しみを覚える方が今では難しいさ。
これが、日常。幼い頃から続く、当たり前。
...ね、つまらない話をしようか。
僕が両陛下のもとに生まれたとき、それは大変な騒ぎになったそうだ。黒が美しいとされる天皇家なのに、生まれてきた皇太子の髪は正反対の白。つり目の一重。代々麗人しか生まれてこなかった稲荷の家系に、突如現れた突然変異。醜い妖狐は、天皇家にはいらない。だから、国の偉い人も両陛下も必死で僕の存在を隠した。
皇后様が妊娠したということは既に国中に知れ渡っていたから、流産ということにして。生まれたばかりの僕は、皇居の端っこにある六畳の和室に隔離された。乳母の美玲は僕を本当に可愛いがってくれた。ただ、彼女はまだ若かったから、皇居のルールをよく分かっていなかったらしい。
稲荷の恥だと言って充分に食べ物を与えてもらえなかった僕を哀れんで、厨房から少しずつ食べ物を盗んでは、食べさせてくれた。今僕が成長期を終え青年でいられるのは、幼児期に美玲がしっかり栄養を与えてくれたおかげだ。
――後で知ったことだけど、彼女が盗んでいたのは陛下の食事で。その事に気がついた厨房の料理人が、直接陛下にこの事を報告してさ。
あのお二人は...特に皇后様は、酷くお怒りになった。そして、賢いお方だから、とびっきりの罰を思い付いたんだ。
僕に美玲を処刑させたら、どれ程愉快か、と。そう言って...そう言って、当時人間で言えば5歳の僕に、刀をもたせた。
「これを美玲の首に刺すんだよ」
刀をさせばどうなるかなんて、知らなかった。
ただ、本当のお母様に初めて笑顔で話しかけられたことが嬉しくて。
――いつものようにじゃれつきながら、なんとなく刀を振って、美玲を殺した。それが初めての、処刑執行だった。
美玲から血が飛び出した時は、何が起こったのか理解できなかった。隣で皇后様が大声で笑って、僕の頭を撫でてくれたのを覚えている。
「お前は今日からこれを仕事にしなさい」
美玲は、皇居のルールをよく分かっていなかった。
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