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第14話
斬首は、手慣れた者がやらなければ酷い有様になる。首の骨も一気に、かつ綺麗にかっ切らなければならないので、相当の集中力、技量、そして無心になる事が求められる。
罪人に対して同情の念を抱くような者は、決してこの役はできない。昔…妖狐と狼が戦争をしていた時代などは、敵国の捕虜に刀を突きつけ、味方同士で斬首の上手さを競い合っていた事もある。
「………なぁ、少年。頼むから勘弁してくれよ…。どうせお前も、金に困ってこんな仕事してんだろ?金ならいくらでもやるから、な?」
「誰かを殺して盗んだ金などいらない。来世で同じ事だけは繰り返すな」
「お、おいおい、本当にやめろ、な、」
どさっ。
キンッと刀を戻す。辺り一面、どす黒い臭いでいっぱいになる。
(…………)
まだこの仕事を始めたばかりの頃は、一日一人斬るので精いっぱいだったが、今はそんな事言っていられない。
いちいち同情する事はしない。してはいけないし、僕にする権利もないと思うから。
ただ、手を合わせることは忘れない。これだけ、これだけでも。次は絶対に馬鹿な事しないでって、祈るんだ。
――さて。
早く仕事を終わらせないと。さっき皇后様から与えられた仕事は、2日分に値する。
仁に会うためにはこれくらいさっさと終わらせなくちゃな。
(…いや、べ、別に、アイツに会うから早く終わらせるんじゃなくて…。ただ僕は早く休みたいから…)
…いや、まず僕は誰に言い訳してるんだ?
「ああーもう!自分が鬱陶しい!」
思わず声に出して叫んでしまった。廊下を歩いていた従者達が、ヒソヒソと囁く。
「なんです、あの汚らしい少年は。突然声を上げて…」
「バカ、ありゃ斬首係だよ。目を合わせたら斬られるよ」
「まっ!あんな歳で、恐ろしい…」
ほら、こういう所だよ、蝉、お前ってヤツは…。
なんだか仁に出逢ってから、僕は間抜けになった気がする。
きっと影響されているんだろう。アイツが僕に影響されればいいのに。…や、それはダメだ。僕みたいなのがこの世界に一人でも増えるのは、ダメだ。
大体僕はいつもいつも…。この前も暗殺に失敗しそうに…。
「…はぁ…」
ため息ひとつ。ほら、蝉、ネガティブになるのはこれでおしまい。
さ、仕事仕事。
(次は豚小屋か…。刀変えないと)
家畜用の刀を処刑場の刀置きから抜くと、前の者が余程ズボラなのか、刃にまだ血が付いていた。この前指導した、中年の新入りかな。
よく言っとかないと。皇后様は綺麗好きだから、こんなのがバレたらあの人殺されるぞ。ただでさえ僕の事で、あの方はいつも不機嫌なのだし。
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