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第16話

それからは怒涛の仕事、仕事、仕事。脚がガクガク震えるくらい動き回った。 僕が部屋に帰ることができたのは、もう月がてっぺんを過ぎて、木に隠れて見えなくなった頃。 ギシ…。 古い木でできた床がガタピシ軋む。灯をつけると、そこには誰もいない。 ――なんてことはなく。 パッとついた灯に、銀色の髪がビクッと動いた。 「うぉ、ビビった!!……あー、なんだ、お前か、荷。随分と遅かったなぁ」 「………あぁ…。仕事がたくさんあって。それよりもすまない、昼食と夕食を用意するのを忘れていた。………って、いや、そうじゃない!お前、今日はそろそろ帰れ」 ナチュラルに、仁に飯を用意するのが当たり前みたいなことを言ってしまった。 狼族の王子がこんなところに夜いたら、大問題だろう。 「えー。やだね、俺まだここにいるからー」 言うと思った。あぁ、コイツときたら。 「………。まさか、狼族の王子がこんなに遊び呆けた若者だったとはな…。道理で、まったくもって噂を聞かなかった訳だ。きっと国王様は必死でコイツを隠しておられたのだろうな…」 「おい、聞こえてるぞ。まず、確かに俺は王子だが、だからってなんでもかんでも国王の言いなりにはならねぇからな?だいったいアイツ、もう何人人間殺してんだ…。ここより、城にいる方がずっと体に悪いんだよ」 「……そう、か」 確かに向こうの国王様は、古くから伝わる儀式のため、毎年人間を神への生贄にしている。 僕も一度、儀式を見たことがあった。 まだ、和長様より少し年上な位の、幼い日のことだったか。外交の練習のためにと、天皇様に連れられて、狼の国へ行ったのだ。 こことは全く違った、美しい西洋風の城で、子供心がきらきら輝いたのを覚えている。豪華なシャンデリアに、装飾が優雅に施された扉。どこからか聞こえてくる、談笑をする楽しげな声。 普段の僕の暮らしとはあまりにも別世界で、ずっとキョロキョロとしていたっけ。 「おい、荷?どうした、いきなり黙り込んでよぉ」 「あぁ、すまない…。そういえば、幼い頃に一度だけ、狼国の城に行ったことがあって……」 「へ?それ、本当かよ。どんな感じだった?あ、ひょっとしたら、俺らその時に会ってたりして」 ずいっと身を乗り出す仁。好奇心に満ちた目に、こっちも少し明るい気持ちになった。 「ん、もしかしたら、な。会ってるかもな。…そうだなぁ…。でも、あそこにお前みたいなのいたかなぁ…」

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