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第5話

 高校生になった夏休み、僕は祖母に頼まれてその部屋の荷物を片づけていた。  修一郎は相変わらず窓枠に腰かけて外を見ていた。彼はそこから玄関を出入りする人を見ている。誰かを待っているのかもしれないと何度も彼を見ているうちに気がついた。  僕は修一郎のことは気にしないで作業を進めた。祖母には見えていないし、彼はこちらが何をしていても構わない。 「その箱の中は何だったかしら」  押入れから出した箱にはネットみたいなものが入っていた。 「ゴミ用ネット?」  首を傾げた僕に、祖母は弾んだ声を上げた。 「違うわ、蚊帳だわ。懐かしいわねえ」  カラス除けネットに見えたそれは大きな蚊帳だった。 「覚えてない? 何年か前まで使ってたと思うけど」 「うん、思い出した。これ、好きだったな」  一階の八畳間の四隅の柱には蚊帳用の丸い金具が取りつけてあって、そこに蚊帳に着いている金具を引っかけて四角型のテントのような大きな蚊帳が張れるようになっていた。  布団三枚分が楽に入れる広さがあり、大人だと背がつかえてしまうが子供なら立っても平気な高さがある大型の蚊帳だ。 「今どき、こんな大きな蚊帳はもう売ってないわね」  祖母が懐かしそうに蚊帳を眺めた。 「この中でよくキャンプごっこしたな」  夏休みに泊りに来ると、この蚊帳に入って弟や妹とキャンプごっこや宇宙船ごっこをして遊んだ。薄い紗のかかった内側は、外とは違う世界に思えてとても楽しかった。 「なんでしまってあるの?」 「穴があいたし、電気式の蚊取り線香を使うようになったから。引っ張って張るのも大変だったしね」  柱の高い位置に引っかけるから、小柄な祖母にはけっこう重かったらしい。

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