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第6話
「そうなんだ。もったいないね」
「そうね。使えないから捨ててもいいんだけど何となく取ってあるの。ダメね、年よりは物を増やすばっかりで」
その時チャイムが鳴って、祖母は窓から玄関を覗いた。
「はーい?」
「ナス持って来たんだけどー」
隣りのおばさんの声がした。
「ああ、ありがとう。いま降りるから待っててー」
祖母が階段を下りて行き、後には中途半端に広げた蚊帳が残された。
ふと気配を感じて顔をあげると、修一郎がこちらを見ていた。正確には蚊帳を見ていた。びっくりしていると、修一郎がすっと寄って来た。
そんなことは初めてで内心びびったが、驚き過ぎて声は出なかった。
彼は僕のすぐ側で膝をついて蚊帳に手を伸ばした。
間近で見た彼は、まつげが長くて作り物のようだった。
「それ、あなたも使ってた?」
写真の修一郎が蚊帳に入っていたことを思い出した。あの蚊帳はこれだったんだろうか。訊ねてみたけれど、もちろん返事はない。
「張ってあげようか」
初めて意思をもって彼が動くところを見たから、ついそんなことを口走ってしまった。修一郎がそう望んでいるのかわからなかったけれど。
顔を上げた修一郎とぱちっと目が合った。
彼はちょっと驚いた顔で手を伸ばしてきて、僕の腕を掴んだ。
え? 掴んだ?
その時、ぐらりと目眩がして僕は目を閉じた。
貧血を起こしたように急激にどこかに落ちるような感じがした。倒れそうになって地面に手をついてこらえ、治まったので目を開いたら目の前に満月が見えた。
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